中嶋 :では、平屋屋敷の前から描写を始める。午後五時、大きな木の門の前でタクシーを降りた
    お前達は広大な庭を塀でぐるりと取り囲んだ立派な屋敷を見て驚いた。幾ら郊外とはいえ、
    これほどのものは滅多にない。『目星』を振らなくとも、相当、古い家と直ぐに察しがつくだろ
    う。更に七条は夢の中で叩いたのはこの門だとわかる。
丹羽 :なら、俺は傘を少し傾けて門を見上げて呟くぜ。でかいな……
伊藤 :凄い……こんな家、初めて見た……
七条 :間違い、ありません。僕が夢で来たのは、ここです……ここで、僕は……その先は言葉を
    濁し、右腕を押さえて恐々と振り返ります。あの水溜まりのあった処を。
西園寺:大丈夫か、臣?
七条 :はい……ただ、悪夢と現実が繋がったので少し動揺しただけです。
西園寺:……そうか。
遠藤 :鹿野さんから連絡がいっているはずです。取り敢えず、中に入りましょう。KP(キーパー)、
    インターホンはありますか?
中嶋 :そういうものはどこにも見当たらない。だが、門の右横にある小さな木戸を遠藤が押してみ
    ると、それは音もなく内側へ開いた。
遠藤 :技能を振らない範囲で池や水溜まりがあるかわかりませんか?
中嶋 :手入れの行き届いた庭は足元が少しぬかるんでいるが、水溜まりはなさそうに見える。池
    の有無はそこからではわからない。
丹羽 :行けそうだな。まあ、池があったとしても、雨で水面が揺れてるから姿は映らねえだろう。
遠藤 :入る前に、もう一度、啓太に注意します。啓太、何があるかわからないから俺の背中だけ
    見てついて来て。
伊藤 :わかった。
中嶋 :お前達は木戸を通って敷地内へ入った。そこは池を中心に緩やかな起伏の所々に草木を
    配した日本庭園で、その合間を縫う様に石の小路が続いていた。それに従って奥へ進む
    と、古い大きな平屋屋敷の前に出た。玄関は上品な濃い色合いの格子戸で左上に木製の
    表札が付いている。だが、長年の風雨で文字は判読出来ないほど掠れていた。ここにも、
    やはりインターホンの類はない。
遠藤 :なら、取り敢えず、格子戸を開けて中へ声を掛けます。すみません。どなたかいらっしゃい
    ますか?
中嶋 :返事どころか人の来る気配さえない。更に間の悪いことに、雨脚が急に強さを増した。瓦
    屋根から伝い落ちる雫や下から跳ねる水滴で、傘を差していても徐々に身体が濡れてくる。
伊藤 :どうしよう。雨音で声が聞こえないのかな。
丹羽 :なら、今度は俺が呼んでみるぜ。
西園寺:待て。KP(キーパー)、これほどの家ならば、玄関に充分な広さがあるはずだ。
中嶋 :ああ、以前は大人数が出入りしていたらしく、格子戸の向こうは広い土間になっている。
西園寺:では、私はこう言う。遠藤、一先ず中へ入らないか? このままでは皆、濡れてしまう。
遠藤 :そうですね。鹿野さんから連絡はいっているはずなので、一先ず中へ入りましょう。
中嶋 :全員で入るのか?
丹羽 :まあ、仕方ねえだろう。雨の中、外で待つ気にはならねえしな。
伊藤 :濡れたくないですよね、やっぱり。
七条 :僕は最後に入って格子戸を閉めます。
中嶋 :なら、全員、『幸運』を振れ。七条はマイナス補正を無視して構わない。『幸運』も体調には
    左右されない。
七条 :わかりました。


丹羽 :幸運(65)→51 成功
西園寺:幸運(85)→07 成功
七条 :幸運(75)→47 成功
遠藤 :幸運(35)→57 失敗
伊藤 :幸運(70)→13 成功


中嶋 :お前達は酷くなった雨を避けて無人の玄関に足を踏み入れた。漆喰の壁に囲まれた土間
    は吹き抜けで、高い上がり框(かまち)から床との段差が大きいのが直ぐに見て取れる。そ
    のため、式台代わりに置かれた昔ながらの靴脱ぎ石が味わいのある雰囲気を醸し出してい
    た。正面にはどこかの山を描いた絵が掛けてあり、それを引き立たせる様に縦格子が立っ
    ている。だが、七条が入った瞬間、それらは総て消えた。代わりにお前達の周囲に大量の
    鏡が現れる。『幸運』に成功した四人は驚きながらも、咄嗟に目を閉じることが出来た。遠藤
    は運悪く視線の先に鏡があった。その鏡面の奥にまた幼い自分がいる。相変わらず、不気
    味な微笑を浮かべてお前を見ているその子はコーヒーに映ったときよりも更に近く、少し成
    長していた。這い寄る不安に正気を貪られ、遠藤は1/1D6+1のSAN(正気度)チェック
    だ。
遠藤 :俺のSAN値は『幸運』より低いんですが……
伊藤 :和希……


遠藤 :SAN(33)→90 失敗 1D6+1→3
    :SAN(33)→30


中嶋 :遠藤は激しく動揺したものの、辛うじて理性を繋ぎ止めることが出来た。
遠藤 :……っ……また……近、づいて……
西園寺:遠藤?
七条 :落ち着いて下さい、遠藤さん、それは幻覚です。
丹羽 :くそっ、これじゃ目を開けられねえ! どこだ!?
伊藤 :……KP(キーパー)、目を開けて和希の手を掴みます。
遠藤 :駄目だ、啓太、また幻覚が進んでしまう……!
中嶋 :口を出すな、遠藤、これは啓太の判断だ。お前に知る術はない。
遠藤 :くっ……!
中嶋 :啓太、目を開けたら、行動する前にSAN(正気度)チェックが入る。遠藤の手を掴めるかど
    うかはその結果次第だ。
伊藤 :わかりました……お願いします。
中嶋 :遠藤の動揺した声に、思わず、啓太は目を開けた。途端に周囲を取り囲む様々な鏡が視
    界に入る。お前は出来るだけ遠藤の手に意識を向けようとした。だが、不安からか、ほんの
    一瞬……鏡を見てしまった。それでもはっきりとわかるだろう。そこに映るお前の背後にいる
    幼子が、先ほど紅茶の表にいたときより姿も立ち位置も確実に今の自分に近づいているこ
    とに。遠藤と同じく1/1D6+1のSAN(正気度)チェックだ。
伊藤 :……はい……
    (ううっ、覚悟はしてたけど……じわじわにじり寄って来るのは、やっぱり怖い……)


伊藤 :SAN(46)→83 失敗 1D6+1→3
    :SAN(46)→43


伊藤 :ごめん、和希……失敗した。
遠藤 :その気持ちだけでも嬉しいよ、啓太、有難う。
中嶋 :四度目の幻覚に啓太も大きく動揺してしまった。二人してその場に凍りついていると、不意
    にお前達を取り囲んでいた鏡が総て消えた。
伊藤 :えっ!? か、鏡が……!
遠藤 :どうなっているんだ!?
西園寺:どうした? 何があった?
伊藤 :鏡が、急に消えました。
七条 :……!?
丹羽 :目を開けるぜ。
中嶋 :丹羽達が再び目を開けると、そこは最初に見た通りの土間だった。そして、左の廊下から
    背広姿の長身の男が現れた。全員で『目星』を振れ。但し、七条は30%減だ。


丹羽 :目星(75)→15 成功
西園寺:目星(85)→53 成功
七条 :目星(50-30)→61 失敗
遠藤 :目星(85)→24 成功
伊藤 :目星(65)→79 失敗


七条 :素直な結果ですね。
中嶋 :成功した三人はこの男に全く生気を感じず、まるで主人の命令だけを遂行する人形の様
    に思った。更に丹羽と遠藤は職業柄、この男が背広の下に防刃ベストを着ていると気づく。
    七条はなかなか治まらない頭痛のせいで、男にそれほど注意を払わなかった。啓太もまだ
    動揺が残っていて何も気づかなかった。
遠藤 :取り敢えず、男に声を掛けます。警察の遠藤と申します。鹿野さんから連絡がいっていると
    思いますが、玄朗さんはご在宅でしょうか?
中嶋 :男は何も答えない。ただ、目線でついて来るよう示した。


 どうも胡散臭いな、と丹羽が呟いた。
「まともな家なら、家人に防刃ベストなんか着せねえだろう」
「玄朗さんのボディ・ガードかもしれませんよ」
 啓太が素直な意見を出した。西園寺が小さく頷く。
「その可能性はある。だが、それならば、玄朗は身の危険を感じているということになる。いずれにしろ、ただ者ではない」
「魔術を使う人もいるようですし、ここは用心した方が良いですね」
 七条は紅茶に手を伸ばした。和希が全員を見回して言った。
「今は逆らっても意味がありません。ここは大人しく従いましょう」

中嶋 :なら、お前達は左右に延々と障子が続く長い回廊の様な廊下を黙って男について行った。
    全く景色に変化がないせいか、暫く歩いていると空間認識が狂ってゆく。今、自分は屋敷の
    どの辺りを歩いているのだろう。この廊下はどこまで続いているのか。いや、そもそも、ここ
    はこんなに広かっただろうか。様々な疑問と不安がお前達の中を過った頃、漸く男が止まっ
    た。右の障子に向かって片膝をついて小さく頭を下げると、以降、全く動かない。どうする?
丹羽 :ここに入れってことか。
七条 :でしょうね。ただ、また鏡の罠があるかもしれません。
丹羽 :なら、俺が先に中を窺うぜ。遠藤はまたSAN(正気度)が減ったら不定になるかもしれねえ
    からな。『目星』を振る。
中嶋 :廊下からでは無理だ。丹羽は皆の前に出ると、細く障子を開けてそっと中を覗き見た。す
    ると、そこは広々とした和室で正面奥に濃紺の紬の着物を着た老人が一人座っていた。玄
    朗は不機嫌そうな声で言った。
玄朗 :入るなら、さっさと入れ。
丹羽 :仕方ねえ。障子を開けて中へ入る。
遠藤 :その後に続きます。
中嶋 :お前達は和室に入ると、用意されてある五枚の座布団に腰を下ろした。
伊藤 :えっ!? どうして俺達が五人とわかったんだろう。
七条 :玄朗さんは魔術師ですから、そのくらいはわかって当然なんでしょう。
伊藤 :あっ、そっか。
西園寺:まずは全員で玄朗に『目星』をする。
中嶋 :七条は先刻と同じく30%のマイナス補正だ。
七条 :わかりました。


丹羽 :目星(75)→79 失敗
西園寺:目星(85)→11 成功
七条 :目星(50-30)→84 失敗
遠藤 :目星(85)→76 成功
伊藤 :目星(65)→88 失敗


中嶋 :西園寺と遠藤は玄朗の鋭い眼光や隙のない所作から老人だと思って甘く見たら危険だと
    思った。失敗した三人は歩き疲れか、特に何も思わなかった。
西園寺:成程……これはKP(キーパー)からの警告だな。力づくなどの無礼な振舞いには、それ
    相応のことが待っているらしい。
    (先刻の従者の装備は対私達用かもしれないな)
遠藤 :なら、まずは丁寧に挨拶します。貴方が玄朗さんですか。再度、お時間を頂き、有難うござ
    います。私は――……
玄朗 :余計な前置きは良い。お前達の名に興味はない。用件は何だ?
中嶋 :玄朗は遠藤の言葉を冷たく遮った。『心理学』を振るか?
遠藤 :お願いします。
丹羽 :俺も振るぜ。
七条 :僕は頭痛がするのでやめておきます。
伊藤 :俺は振ります。何か怪しいし、玄朗さん。
西園寺:三人もいるから、私が比較用に振る必要はないな。
中嶋 :クローズドで振る。


遠藤 :心理学(80)→??
丹羽 :心理学(85)→??
伊藤 :心理学(85)→??


中嶋 :遠藤は玄朗が何か後ろめたいことがあって話を早く切り上げようとしていると感じた。丹羽
    と啓太は玄朗がこの一連の失踪騒ぎにかなり苛立っていると思った。
伊藤 :何か和希だけ微妙に違う。
遠藤 :ああ、これはどちらかが失敗していそうだな。
    (技能値80%を二人も失敗するとは考え難い。これなら、俺は振らない方が良かったな)
丹羽 :遠藤は玄朗に疑いを持ったが、俺達はまだそこまでではねえってことだろう。取り敢えず、
    今は話を聞いて後で情報を整理しようぜ。
遠藤 :そうですね。なら、俺は単刀直入に尋ねます。風窓鏡枝という人物をご存じですか?
玄朗 :知らん。
遠藤 :本名は風見京枝というオカルト研究家で、今回の失踪事件の原因と思われる人物です。
玄朗 :ほう? 一応、警察も仕事はしているということか。なら、さっさとそいつを逮捕しろ。この事
    件のせいで、儂は警察には疑われるわ、興味本位の野次馬には敷地に侵入されるわで非
    常に迷惑しとる。
遠藤 :現在、風窓さんは行方不明です。それで今、彼の足取りを追っています。失踪する直前、
    風窓さんは貴方に助けを求めて門前まで来ています。その理由に何か心当たりはありませ
    んか?
玄朗 :先刻から知らんと言っとるだろう。そもそも、何かに狙われて誰かに助けを求めるのはそん
    なに不自然なことではなかろう。
遠藤 :なぜ、風窓さんが狙われていたと知っているんですか?
    (これではKP(キーパー)の思う壷だ。中嶋さんは俺に玄朗を疑うよう仕向けている)
玄朗 :……誰かに助けを求めるなら、何かに狙われていると思っただけじゃ。人の揚げ足取りば
    かりしとらんで、さっさとその風窓とやらを探しに行け。儂に訊いても時間の無駄じゃ。
中嶋 :玄朗はお前達を追い払う様に手を振った。全員、CON(体力)×5を振れ。
遠藤 :ここで……
    (何の判定だ……?)


丹羽 :CON(75)→90 失敗
西園寺:CON(45)→88 失敗
七条 :CON(55)→97 ファンブル
遠藤 :CON(90)→71 成功
伊藤 :CON(45)→79 失敗


「酷い出目だな。成功したのは遠藤だけか」
 西園寺が呆れた声で呟いた。ふふっ、と七条は笑った。
「僕はこれがどう処理されるか楽しみです」
「……」
 啓太は無言で七条を見やった。
 最近はTRPGの恐怖に少し慣れてきたが、基本的にやはり啓太は怖がりだった。SAN値チェックも発狂も出来れば避けたい。七条の様な楽しみ方はしようとすら思わなかった。そんな内心を見透かしたのか、丹羽が言った。
「七条、ほどほどにしろよ。啓太が引いてるぞ」
「そ、そんなことないです……!」
 慌てて啓太は首を振った。西園寺が小さくため息をついた。
「啓太、臣のことは気にするな。もうこの性格は治らない……昔はもっと可愛げがあったのにな」
「おや、酷いですね、郁」
 七条は柔らかく微笑んだ。中嶋が結果を告げる。

中嶋 :玄朗が手を振った瞬間、お前達は虫の羽音が聞こえた気がした。同時に、首の後ろに刺さ
    れた様な鋭い痛みが走った。成功した遠藤はその感覚は直ぐに消え、特に異変はない。失
    敗した丹羽、西園寺、啓太の三人は激しい頭痛と目眩で視界が歪んだ。座っていることもま
    まならず、畳の上に崩れ落ちて暫く動くことが出来ない。ファンブルの七条はあまりの激痛
    に意識を失ってしまった。
七条 :おや、また夢を見れそうです。
中嶋 :夢の中で七条は重い身体を引きずる様に薄暗い山道を歩いていた。ただ、ひたすら前だ
    けを見て。それは体力に余裕がないというより、後ろにいる何かが怖くて振り返ることが出
    来ないからだった。やがて分かれ道に出た。小さな看板に休憩所と川への方向が示されて
    いる。お前は人目を避けて川へ向かった。水面には近寄らないよう川沿いの砂利道を、ふ
    らふらと川上へ進む。暫く行くと、もう使われていない河川管理用の建物を見つけた。お前
    は錆びた扉を片手で押し開いて中へ入った。傍の壁に力なくもたれかかる。失った右腕から
    溢れる血で服は赤黒く変色し、恐怖と失血で先刻から身体の震えが止まらなかった。お前
    はずるずると床に座り込むと、朦朧とする意識で上着の内ポケットから古ぼけた鏡を取り出
    した。その向こうから、相変わらず、青い瞳がこちらを見ている。ただ一つの眼差しに狂おし
    いほどの情愛と期待、辛抱を湛えて。お前は今までになくそれを強く感じて目頭が熱くなっ
    た。そして、溢れる涙の中、お前自身も最初からずっとあれを求めていたと悟ってしまった。
    だから、今までこの鏡を捨てられなかった。これは、あれと自分を繋ぐ唯一のものだから。あ
    あ、もう逃げられない。己に潜む狂気を漸く認めたお前は激しい歓喜と絶望に包まれた。泣
    きながら、意識を取り戻した七条は1D8/1D20のSAN値チェックと『クトゥルフ神話』を1
    獲得する。
七条 :狂気に中(あ)てられ、とうとう狂ってしまいましたか……


七条 :SAN(74)→44 成功 1D8→4
    :SAN(74)→70
    :クトゥルフ神話(17)→18


中嶋 :夢を見ていたのは、ほんの僅かな時間だった。だが、七条は千々に乱れる感情に翻弄さ
    れて暫く現実を巧く認識出来ない。丹羽、西園寺、啓太は気分の悪さは残っているものの、
    頭痛は治まった。
丹羽 :なら、俺は低く呻きながら、起き上がるぜ。な、何だったんだ、一体……っ……
西園寺:私は頭を押さえて呟く。皆……っ……無事、か……?
遠藤 :啓太! 啓太! 大丈夫か、啓太?
伊藤 :……う、ん……何、とか……
七条 :僕はまだ畳に崩れたまま、静かに涙を流しています。自分が泣いているとは気づいてませ
    ん。
西園寺:では、私が声を掛ける。どうした、臣……泣いているのか?
七条 :……っ……僕、は……もう……
西園寺:臣……?
遠藤 :俺は玄朗をきつく睨んで問いただします。先刻の鏡といい、今の現象といい、俺達に何を
    した!?
玄朗 :何でも人のせいにするでない。噂好きの馬鹿どもならまだしも、憑かれた者が来ると面倒
    だから儂は自衛しとるんじゃ。それにお前達が勝手に反応しただけだろう。
丹羽 :やっぱり何か知ってんじゃねえか。
玄朗 :違う。現に儂はたった今まで誰が原因かも知らんかった。自衛しただけで、なぜ、責められ
    ねばならん?
遠藤 :自衛出来るなら、ある程度、原因にも見当がついているはずです。なぜ、最初の聴取のと
    きにそれを話さなかったんですか?
玄朗 :普通の者が魔物の話など信じるものか。もし、仮に信じたとして、次はどうなる? 何とか
    しろと言われるに決まっとる。なぜ、儂がそんな割に合わんことをせねばならんのじゃ。
伊藤 :でも、何もしなかったら、大勢の人が……
玄朗 :なら、お前は全くの他人のために自分の生命を懸けられるのか? お前達がここへ来たの
    は己にかけられたその呪いを解くためで、決して赤の他人のためではあるまい。それで儂
    を責めるのは筋違いと言うものじゃ。
丹羽 :(さすが中嶋のNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)……素直に情報は出さねえな)
    確かに俺達は呪われてる。だが、俺が呪いを解きたいのは自分のためじゃねえ。一人で呪
    いを追ってギリギリまで誰にも助けを求めずに失踪した奴を助けるためだ。
玄朗 :……ほう?
中嶋 :玄朗の声音が少し変わった。それまでは取りつく島もない態度だったが、少し興味を持っ
    た様に感じる。
丹羽 :(よし! 後は中嶋の人となりを挙げて説得すれば……!)
    あいつは性格も根性も捻くれ曲がって素直さなんてとっくの昔に海の底に投げ捨ててるが、
    良い奴なんだ……多分。だから、俺はあいつを助けたいんだ!
伊藤 :王様……
    (言ってることは間違ってないけど、せめて多分はやめて断定して下さい)
中嶋 :(後でお仕置きだな、哲ちゃん)
    玄朗は暫く考え込むと、やがて静かに言った。
玄朗 :お前達が見た悪夢はどんなものじゃ?
遠藤 :言えません。聞いたら、貴方も呪われます。
玄朗 :自衛しとると言っただろう。出来るだけ詳細が知りたい。そうしたら、儂の推測を含めてわ
    かることを教えてやっても良い。
遠藤 :KP(キーパー)、『心理学』をお願いします。俺は玄朗を疑っているので、その言葉を素直
    に信じることは出来ません。
丹羽 :俺は今回はパスだ。もう少し様子を見るぜ。
中嶋 :……他はいないな。クローズドで振る。


遠藤 :心理学(80)→??


中嶋 :遠藤は玄朗がこの呪いの蔓延を良くは思ってないものの、自ら動いて解決する気はなく、
    自分達を利用しようとしていると感じた。
遠藤 :成程……俺の心証は悪いですが、教えてくれる情報に嘘はなさそうですね。
七条 :詳細と言う以上、僕から話すのが良いと思いますが……KP(キーパー)、もう話せる状態
    ですか?
中嶋 :いや、お前はまだ会話出来ない。歪んだ微笑を浮かべながら、絶望に涙している。
伊藤 :なら、七条さんの次に悪夢が進んでるので、俺が話します。
中嶋 :啓太、そこはかくしかで良い。
    (ふっ、ここで七条を追い込む予定だったが、これもまた悪くない)
伊藤 :あっ、はい……それじゃあ、かくかくしかじか。
七条 :いあ いあ くとぅるふ
西園寺:……臣。
七条 :ふふっ、これはお約束ですよ、郁。
中嶋 :では、話し終えた啓太の耳にまたあの虫の羽音が響いた。それはじっとりと聴覚に纏わり
    つき、お前は頸椎に根を張られた様な不快感を覚える。0/1のSAN(正気度)チェックだ。


伊藤 :SAN(43)→68 失敗
    :SAN(43)→42


伊藤 :失敗したけど、1で良かった。
中嶋 :玄朗は小さく腕を組むと、重苦しい声で話し始めた。
玄朗 :先に断っておくが、今、ここで何が起こっているか正確には儂にもわからん。ただ、この家
    は古くから陰陽道に通じ、儂も呪術に関しては一角の心得がある。だから、そう的外れな推
    測はせん。儂から言えるのは、この呪いには何者かの怨念に近い強い意思を感じるという
    ことじゃ。
丹羽 :怨念……風窓さんは何かを恨んでたって言うのか?
玄朗 :いや、儂の言う怨念とは心に深く刻み込まれた思いのことじゃ。今回は恨みより後悔の方
    が大きい。だが、その裏に魔物じみた混沌とした狂気の念が混ざっておる。恐らくその青い
    瞳の化け物は風窓の怨念を糧に虫を使ってこの呪いを蔓延させているのだろう。
伊藤 :虫? そういえば、先刻、虫の羽音の様なものが聞こえました。もしかして、あれですか?
玄朗 :ああ、この呪いに感染した者には不可視の虫が憑いておる。それがお前達に悪夢や幻覚
    を見せ、主たる魔物の下へ誘(いざな)うのじゃ。虫は触れるどころか目視すら難しいが、糧
    となったものならお前達でも可視出来る。だから、糧を絶てば、恐らく魔物は諦めて呪いの
    虫も消えるだろう。
丹羽 :恐らく、かよ。曖昧だな。
玄朗 :魔物が何をどう考えるか儂にわかるはずなかろう。
西園寺:やはり風窓の足取りを追わなければならないか……臣が落ち着いたら、恐らくまた何か
    わかるだろう。
玄朗 :糧の凡その場所ならわかっておる。この屋敷の裏にある山じゃ。山の中腹を流れる川の傍
    に、地図には載っておらんが、昔は水質管理をしていた建物がある。その辺りから強い怨
    念を感じる。
遠藤 :そこまでわかっていて自衛だけとは……今日、俺達が来なかったら、貴方はまだ傍観する
    つもりだったんですか?
玄朗 :当然じゃ。お前達の話を聞くまで、儂は怨念の源が人か魔物かさえわからんかった。しか
    も、今、あの山は特殊な結界に包まれておる。恐らく魔物が糧を守るために張ったのだろ
    う。あれを通過出来るのはお前達の様に虫に憑かれた者のみ。迂闊に手を出せば、ミイラ
    取りがミイラになるだけじゃ。
丹羽 :合理的な爺さんだぜ、全く。なら、糧を絶つとは具体的にどうすれば良いんだ?
玄朗 :最も怨念の籠もっているものを破壊すれば良い。
丹羽 :爺さんの様な知識のない俺達にもそれがわかるのか?
玄朗 :ああ、わかる。見た瞬間、お前達に憑いた虫が糧に反応するだろう。
丹羽 :そこまでわかれば充分だ。色々有難うな、爺さん。
    (鏡だったらラッキーってとこか……最悪の場合も考えておいた方が良いな)
伊藤 :あの……俺からも一つだけ訊いても良いですか?
玄朗 :何じゃ?
伊藤 :失踪した人はまだ生きてますか……?
玄朗 :……何とも言えん。仮に生きていたとしても、呪いの末期者にまともな思考は出来ん。完
    全に魔物の操り人形になっとるはずじゃ。だから、お前達が糧を絶とうとすれば、それを守
    るために何をするかわからん。決して油断はせぬことじゃ。
伊藤 :……わかりました……
中嶋 :玄朗から話を聞き終えたお前達はまた従者の後をついて玄関へ向かった。左右に障子が
    ずらりと並ぶ廊下を歩いている途中、ふと啓太は視界の隅で何かが動いた気がした。どう
    する?
伊藤 :気になるし、ちょっとそっちを見ます。
中嶋 :『幸運』を振れ。


伊藤 :幸運(70)→26 成功


中嶋 :なら、特に異変はない。単なる気のせいだったらしい。
伊藤 :あっ、はい。
    (何だったんだろう、今の……)
中嶋 :お前達が屋敷を出て時計を見ると、時刻は午後七時を少し過ぎていた。外は完全に夜の
    帳が下り、いつの間にか、雨は上がっている。これからどうする?



2019.6.7
中嶋さんの不穏な企み……
総てダイスの女神のせいと言っても信じて貰えなさそうです。
やはり日頃の行いは大事です。

r  n

Café Grace
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