中嶋 :意外と早かったな、丹羽……
丹羽 :中嶋……!
    (まさかここで来るとはな……)
伊藤 :中嶋さん! 無事だったんですね!
    (良かった! 生きてた!)
遠藤 :啓太が中嶋さんに駆け寄らないよう注意します。落ち着いて、啓太……玄朗さんの忠告を
    思い出して。


「あっ……!」
 啓太は小さく息を呑んだ。
(まさか中嶋さん、操られてる!?)
 中嶋の生死ばかり考えていた啓太は完全にそのことを忘れていた。しかし、もし、本当に糧に近づく者を襲うつもりなら、姿を隠して不意打ちする方がより確実ではないだろうか。少なくともここで現れる意味はない……と直ぐに気づいた。
(中嶋さんが操られてるかどうか確かめるには何を振ったら良いんだろう)
 啓太は自分の技能を頭に思い浮かべた。そのとき、七条が言った。
「KP(キーパー)、『目星』を振ります」
「駄目だ。俺は街灯の光の届かない暗がりに立っているので、姿は殆ど見えない。きちんと山へ入って近づけば振ることは可能だが、それでも50%のマイナス補正が付く。お前では自動失敗だ」
 中嶋は小さく口の端を上げた。すると、すぐさま西園寺が――……
「丹羽と私はペン・ライトを持っている。それを点ければ、補正は付かないはずだ」
「スマホにもライトのアプリがあります」
 七条が更に追加した。しかし、中嶋は首を横に振った。
「俺は光を避けるので補正値は変わらない」
「なら、他に出来るロールはありませんか?」
「『心理学』が可能だが、声だけで判断するので、20%のマイナス補正が入る。七条も補正値は同じだ。『心理学』は体調に左右されない。但し、声だけの場合、技能を取っていない西園寺は振ることが出来ない」
「それなら僕は55%ですか……これでは比較するものがないと、判断が難しいですね」
 残念そうに七条は呟いた。西園寺がすっと隣に目をやる。
「臣、『心理学』は主観的な思い込みに過ぎない。今、私達は玄朗の話を聞いて中嶋が魔物に操られているかもしれないと考えているはずだ。ならば、その結果もそれに引きずられている可能性がある。過信はするな」
「確かに……先入観を持っているなら、結果は当てになりませんね。わかりました。気をつけます」
「山へ入ったら、もう戻れませんか?」
 和希が中嶋に尋ねた。
「戻れないということはない。ただ、時間を無駄にするだけだ」
「でも、一応、警戒はするべきですね。俺は最後尾で後ろを注意するので、王様は前をお願いします」
「おう、それじゃ覚悟を決めて山へ入るか。だが、一応、七条以外で『目星』も振ろうぜ。数打てば、誰か一人は成功するだろう、きっと」
 丹羽の暢気な提案に、良いだろう、と中嶋は頷いた。
「50%減で振れ」

丹羽 :目星(75-50)→84 失敗
西園寺:目星(85-50)→86 失敗
遠藤 :目星(85-50)→70 失敗
伊藤 :目星(65-50)→03 クリティカル


伊藤 :あっ、やった! クリティカルだ。
遠藤 :凄いな、啓太。
丹羽 :お~、さすが啓太だぜ。
中嶋 :丹羽を先頭にお前達は山道へ足を踏み入れた。すると、俺は距離を保つ様に少し後退っ
    た。やはりまた暗がりに立っているので、お前達から俺の姿は良く見えない。だが、啓太は
    一瞬、俺と目が合った。それはあの悪夢の中で青い瞳の怪物がこちらに向けていた眼差し
    にも似てどこか薄ら寒く、酷く気味が悪かった。
伊藤 :そんな……なら、そっと和希の服を掴みます。
遠藤 :どうした、啓太?
伊藤 :……わからない、けど……っ……あの中嶋さん……何か、怖い……
遠藤 :そうか……啓太、絶対に俺から離れないで。
伊藤 :うん……わかった……
丹羽 :啓太の反応を見た俺は中嶋に尋ねる。早かったとはどういう意味だ、中嶋? 俺を待って
    たのか?
中嶋 :ああ……お前なら、必ずここまで来ると思っていた。この先に風窓はいるが、俺はそこに近
    づけない……光が怖い。だから、頼む……力を貸してくれ、丹羽。
七条 :KP(キーパー)、今の言葉に『心理学』を振ります。
遠藤 :俺もお願いします。
伊藤 :俺は……俺も、振ります。中嶋さんが本当に操られてるか気になるから……
    (これは絶対に、絶対に成功して欲しい……!)
中嶋 :良いだろう……お前は振らないのか、丹羽?
丹羽 :ああ、別に必要ねえだろう。そんなことしなくてもわかるしな。
七条 :随分とメタな思考ですね。
西園寺:全くだ。だが、それを私自身、納得出来るのが腹が立つ。
中嶋 :ふっ、三人を20%減のクローズドで振る。


七条 :心理学(75-20)→??
遠藤 :心理学(80-20)→??
伊藤 :心理学(85-20)→??


中嶋 :七条は俺が嘘をついていると思った。遠藤は俺から強い悪意を感じ、騙そうとしていると確
    信した。啓太は俺の言葉に嘘はない気がした。
伊藤 :皆、ばらばら……
    (う~ん、俺、失敗したのかな。操られてるなら、嘘をつくと思うんだけど……でも、成功して
    るなら、中嶋さんは操られてない……?)
七条 :これは巧く分かれましたね。今回、女神は随分と協力的です。
遠藤 :お陰で、PL(プレイヤー)とPC(プレイヤー・キャラクター)の視点が同じになってRP(ロー
    ル・プレイ)がやり易くなりました。
    (間違いなくミスリードだ。だが、これで俺は啓太を自然に止められる。啓太はまだ中嶋さん
    が操られていると信じ切れてないからな)
丹羽 :まあ、結果がどうあれ、今更、戻る奴はいねえだろう。中嶋、風窓の処へ向かうぜ。
中嶋 :お前達は胸を過る様々な感情を押し殺し、それぞれの明かりを手に俺に続いて夜の山を
    歩き始めた。不気味に静まり返った山中は鳥や虫の声一つせず、暗闇と相まって否が応に
    も不安をかき立てる。誰もが自然と周囲を警戒する中、俺だけは時折、少し後ろへ瞳を流し
    てはお前達との距離を気にしていた。
七条 :まるで僕達を誘い込んでいる様ですね。
    (用心したほうが良いですね。この先に罠があるかもしれません)
中嶋 :そうして暫く行くと、分かれ道に出た。俺は黙って右へ曲がる。七条は『アイデア』を振れ。
    時間経過により更に10%回復したので、補正値はマイナス10%だ。
七条 :これは失敗したくないですね。


七条 :アイデア(60-10)→49 成功


七条 :ふう、助かりました。
中嶋 :お前はそこは先刻の夢で見た場所に間違いなく、方向も正しいと思った。だが、分岐路に
    あったはずの休憩所と川への方向を示す看板はなかった。
七条 :『目星』で看板を探します。
中嶋 :10%減で振れ。


七条 :アイデア(50-10)→92 失敗


七条 :暗くて見つけられなかった様ですね。なら、僕はさり気なくこう呟きます。夢でここを通りまし
    た。この先に川があるはずです。
中嶋 :言われて耳を澄ますと、鬱蒼とした木々の奥から微かに水の流れる音が聞こえた。それは
    進むにつれて次第に明瞭さを増し、やがてお前達は石の河原へと出た。目の前を右から左
    へ勢い良く川が流れている。先ほどまでの雨で月が隠れているため対岸は暗くて見えない
    が、その川を見た瞬間、首筋が虫にでも触れられたかの様にざわりと不快に粟立った。
丹羽 :俺は首筋を気持ち悪そうに撫でてため息をつく。はあ……やっぱり憑いてるみたいだな、
    不可視の虫って奴が。
西園寺:ああ、糧に近づいたから活発になったのだろう。全く……汚らわしい。
七条 :そういえば、二人はまだ夢も幻覚も見ていませんでしたね。
伊藤 :……見ない方が良いですよ、あんなもの……
遠藤 :啓太、もう少しの辛抱だから。
伊藤 :うん……
丹羽 :中嶋、どっちに行けば良いんだ?
中嶋 :俺はそれには答えず、無言で川へ寄った。水際に立ち、声を掛けても振り返らない。
丹羽 :(川に何かあるのか……?)
    傍まで行って俺も川を見る。
中嶋 :他に川に近づく者はいるか?
西園寺:私は行かない。
七条 :僕は見に行きます。もしかしたら、SAN(正気度)チェックがあるかもしれませんから。
遠藤 :任務上、俺は確認しない訳にはいかないですね。でも、その前に啓太に川には近づかな
    いよう注意します。水鏡がないとは限らないので。
伊藤 :うん……俺、もう幻覚は見たくない。
中嶋 :なら、西園寺と啓太以外は『幸運』を振れ。


丹羽 :幸運(65)→08 成功
七条 :幸運(75)→93 失敗
遠藤 :幸運(35)→19 成功


中嶋 :丹羽と遠藤は夜の川に手持ちの明かりを向けたが、特に何も気づかなかった。七条はス
    マートフォンのライトが川面を照らした瞬間、キラリと青が過ったのを見た。これには任意で
    更に『クトゥルフ神話』を振ることが出来る。マイナス補正はなしで良い。
七条 :勿論、振ります。
丹羽 :ワンチャンあるな、これ。


七条 :クトゥルフ神話(18)→32 失敗


七条 :ああ、もっと、もっと発狂しなければっ……!
中嶋 :七条は何かを思い出し掛けたが、誰かの近づいて来る足音にそれは霧散してしまった。お
    前達が慌てて川上に光を向けると、そこには虚ろな顔をした四人の男が立っていた。これよ
    り戦闘に入る。今回は幾つか特殊ルールがあるので、最初にその説明をする。まずは回避
    に専念すると宣言することで行動を放棄し、そのR(ラウンド)中は何度でも回避することが
    出来る。宣言しなければ、回避はいつも通りR(ラウンド)中に一回のみだ。また、誰かをか
    ばった場合、以降、総ての判定が自動失敗となる。
丹羽 :それはそのR(ラウンド)中だけか?
中嶋 :いや、これはR(ラウンド)を跨いで継続する。かばうを解除すれば、また通常の判定に戻
    る。
西園寺:それでは簡単にかばうことは出来ないな。
    (かばうのデメリットが大きい。ただの戦闘ではないな)
中嶋 :今回、敵のクリティカル効果は必中のみ、お前達は必中かダメージ二倍のどちらかを選択
    することが出来る。ファンブルは状況に応じて適宜、俺が決める。行動はDEX(敏捷)順に
    敵A、丹羽、遠藤、西園寺、中嶋、七条、啓太、敵B、敵C、敵Dとなる。まずは敵A……啓太
    に攻撃する。
遠藤 :啓太をかばいます。
伊藤 :駄目だよ、和希。そうしたら、和希が行動出来なくなるじゃないか。俺なら大丈夫。KP(キ
    ーパー)、回避に専念します。
    (まだ誰も怪我してないし、俺が一回くらい行動を放棄しても平気だよな)
中嶋 :敵Aの判定をする。


敵A :こぶし(40)→??


中嶋 :(ふっ、やはり女神は俺の味方か)
    男達の一人が突然、啓太に襲い掛かった。完全に不意を突かれた啓太は反応出来ない。
    敵Aのクリティカルだ。
伊藤 :いきなりそんな……!
遠藤 :KP(キーパー)、やはり俺が啓太をかばいます!
中嶋 :却下だ。真っ直ぐ啓太に駆け寄った敵Aは上着のポケットから何かを取り出し、目の前に
    突きつけた。啓太の持つスマートフォンの光源でも、これだけの至近距離ならはっきりとわ
    かるだろう。それは、小さな手鏡だった。
伊藤 :えっ!? ああっ……!
遠藤 :啓太っ……!
中嶋 :その鏡に映るお前の真後ろに、もう一人の自分がいた。それは楽しそうにお前に言った。
    こんばんは、と。それは嬉しそうにお前に囁いた。有難う、と。そして、最後にそれは残酷に
    お前を嗤った。お疲れ様、と。その声が頭に響いた途端、啓太は過去の記憶がすうっと消え
    てゆくのを感じた。友人や家族、自分の顔や名前すら思い出せない。逃げようにも足が動
    かず、叫ぼうにも声が出なかった。お前は身体の使い方が、思考する言葉自体がもうわか
    らなくなっていた。何もかもが、まるで指の隙間から零れ落ちる砂の様に失われてゆく。後
    に残ったのは抜け殻になった器のみ……啓太は1D8/1D20のSAN(正気度)を喪失し、
    これ以降はKP(キーパー)に従属する。
伊藤 :それは、どういう意味ですか?
中嶋 :要はシナリオ脱落だ。
伊藤 :そ、そんな……


伊藤 :SAN(35)→10 成功 1D8→1
    :SAN(35)→34



2019.9.27
終に初の脱落者が出てしまいました。
まさかあそこでクリティカルが出るとは……
女神は中嶋さん推しの様です。

r  n

Café Grace
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