漸く戦闘描写を終えた中嶋は乾いた喉を潤そうとコーヒーに手を伸ばした。その途端、すかさず和希は丹羽を睨みつけた。
「王様、啓太を殺した罪は後で必ず償って貰います」
「いや、殺してねえだろう。一瞬、HP(耐久力)がマイナスになったが、ちゃんと助かったじゃねえか」
「それは結果論です」
 和希は、ばっさり切り捨てた。西園寺が小さく頷いた。
「遠藤の言うことは尤もだ。丹羽、お前はいつも力ずくで事を運び過ぎる」
「俺だって穏便な方法があるなら、そうしようと思ってる。ただ、今回はPC(プレイヤー・キャラクター)的に余裕がねえから多少、強引になるのは仕方ねえだろう。なあ、中嶋」
 丹羽は自分と思考の似ている中嶋に同意を求めた。中嶋は小さく息をついた。
「セッション中にあまり解説はしたくないが、この辺りはかなり改変しているから仕方がない……今回、戦闘が長引いたそもそもの原因はお前だ、丹羽」
「……!?」
「ここの敵は基本的に鏡攻撃しかしない。呪いの末期者は言われたことしか出来ないからな。それは玄朗の言葉から充分、推測出来たはずだ。だから、西園寺が試みた様に鏡さえ叩き落とせば良かった。しかし、ダメージを受けると、生存本能が働いて反撃してくる。そうなってはもう無力化するには気絶させるしかない。つまり、お前が俺を攻撃したことによって自ら反撃を招き、結果、全員がそれに流されてしまった」
「やはりそうか……」
 冷たく和希は呟いた。だが、と中嶋の声が続く。
「遠藤の敵Aへの殺意の高さを考慮すると、丹羽が何をしようと結果は同じだっただろう」
 お~っと丹羽が声を上げた。
「なら、俺だけのせいじゃねえな、遠藤」
「……っ……!」
 丹羽に償わせる方法を既に幾つも考えていた和希は悔しそうに掌を握り締めた。王様、と啓太が口を挟んだ。
「気にしないで下さい。これはゲームだし、俺は死ななかったんだから。和希も、それで良いだろう? 俺、和希が過保護なのはもう諦めてるけど、あんまり無茶なこと言うと怒る……いや、嫌いになるからな」
「なっ……!」
 その言葉に和希は頭を思い切り鈍器で殴られた気がした。総て、総て啓太のためになのに……嫌われたら意味がない。和希は内心の動揺を必死に押し隠し、慌てて言葉を絞り出した。
「啓太、俺も少し大人気なかった。反省した。反省したから、そんなことは言わないで。ねっ?」
「……わかった」
 少し間を置いて、啓太は小さく頷いた。
「俺も別に本気で言った訳じゃないよ、和希。そもそも、俺が和希を嫌いになる訳ないだろう」
「ああ……良かった」
 ほっと和希は胸を撫で下ろした。場の雰囲気を変えるべく七条が軽く手を叩いた。
「さあ、戦犯探しはここまでにしましょう。この先でラスボスが待っています」

中嶋 :では、戦闘後から描写を再開する。お前達は不意に敵に襲われたが、何とか全員を気絶
    させることが出来た。河原に倒れている俺達をどうする?
遠藤 :取り敢えず、啓太を近くの木の下に移動させたいです。もし、また雨が降ってきたら、濡れ
    てしまいます。
西園寺:中嶋も川辺に放置する訳にはいかないだろう。
七条 :手分けして全員を木の下へ移動させましょう。
丹羽 :ついでに両手を縛っておこうぜ。万が一、意識が戻ったら、挟み撃ちになるからな。それで
    多少は時間稼ぎになるだろう。
中嶋 :お前達はそれぞれ敵の上着やネクタイを使って後ろ手に縛り上げた。丹羽、西園寺、遠藤
    は50%減で『目星』を振れ。七条は自動失敗だ。


丹羽 :目星(75-50)→55 失敗
西園寺:目星(85-50)→26 成功
七条 :目星(50-50)→   自動失敗
遠藤 :目星(85-50)→80 失敗


中嶋 :殆ど明かりのない暗がりの中、お前達は気絶した敵を背負って川から離れた木の傍まで
    運んだ。そのとき、西園寺は俺を運ぶ丹羽の足元に何かが落ちたことに気づいた。それは
    俺のライターだった。
西園寺:拾って丹羽に渡す。丹羽、中嶋のライターが落ちた。
    (火が必要になるのか)
丹羽 :おっ、サンキュー、郁ちゃん。そう言って俺は自分のポケットに入れるぜ。
    (ライターか……最悪の想定は回避出来そうだな)
中嶋 :道案内がいなくなったので、お前達は七条の夢の記憶を頼りに河原を川上へ向かった。五
    分ほど進むと、玄朗の言った通り、河川管理用の小さな建物が見えてきた。錆びた鉄扉の
    上に弱々しい明かりが点いているので、まだ電気が通っているとわかる。周辺に人影はな
    い。中へ入るか?
遠藤 :どこかに窓はありますか? 一応、室内の様子を確認したいです。
中嶋 :建物はコンクリート造りで窓はない。出入口は鉄扉の一ヶ所だけだ。
丹羽 :なら、俺が先に中を覗く。ちょっと待て、と手で合図を送って一人だけ鉄扉に近づくぜ。『聞
    き耳』を振れるか?
中嶋 :不可だ。建物は古いが、頑丈な造りで中の音は全く聞こえない。
丹羽 :まあ、そうだろうな。仕方ねえ。少しだけ扉を開ける。
中嶋 :丹羽は音を立てないよう慎重に鉄扉を押した。錆びた蝶番が静かな夜に耳障りな音を響
    かせる。だが、中から人の来る気配はなかった。建物内は完全な暗闇で、微かに埃と錆び
    た鉄の匂いがする以外は何もわからない。
丹羽 :誰もいねえなら、扉を押し開いて明かりを点ける。
西園寺:それを見た私達も建物に近づく。
中嶋 :丹羽は左の壁にある明かりのスイッチを入れた。長い間、使われていなかった天井の蛍光
    灯が微かな音を立てて点いた瞬間、お前は首筋が不快にざわめくのを感じた。がらんとし
    た室内の中央に誰かが倒れている。西園寺達も室内を見たら同じ感覚を覚えるだろう。室
    内へ入る者はきちんと宣言しろ。
丹羽 :(入ると何か起こりそうだな)
    俺は警戒しつつ、中へ入って声を掛けるぜ。風窓さん……?
西園寺:私も入る。丹羽の後に続く。
七条 :僕も入ります。この事件を最後まで見届けたいので。
遠藤 :俺も確認しない訳にはいきません。中へ入ります。
中嶋 :なら、お前達は倒れている者は既に死んでいると気づいた。この遺体には室内に入った者
    のみ『医学』か『目星』を振ることが出来る。七条のマイナス補正は時間経過により解消した
    ので、DEX(敏捷)以外は通常の値に戻っている。
丹羽 :『目星』を振るぜ。
西園寺:私も『目星』を振る。
七条 :僕は『医学』を振ります。違う結果が出るかもしれませんから。
遠藤 :俺は『目星』にします。


丹羽 :目星(75)→42 成功
西園寺:目星(85)→65 成功
七条 :医学(65)→08 成功
遠藤 :目星(85)→89 失敗


遠藤 :この値で失敗するとは……
中嶋 :丹羽と西園寺はこの遺体は風窓で、傍に散らばっている硝子の破片はレンの硝子だろうと
    思った。だが、それは鏡の様に何かを映すことはなく、普通の割れた硝子になっていた。七
    条は遺体の右腕がないことから同じくこれが風窓だとわかったが、失踪の時期を考えると遺
    体が異様に乾燥して殆どミイラ化していることに気づいた。遠藤は仕事上、異常な死に慣れ
    過ぎていたのか、ただの死体にしか見えなかった。
丹羽 :俺は小さく息を吐いて呟く。風見さんに、報告しねえとな……
西園寺:ああ……
中嶋 :お前達は沈痛な面持ちで遺体を見つめた。風窓を追ってここまで来たが、これで終わりで
    はないとわかっていた。ここに入った瞬間から不可視の虫を通してずっと感じていた、この
    遺体こそが糧ということを。


「まあ、そうだろうとは思ってたぜ。破壊ってことは燃やしても良いんだろう。良く燃えそうだしな」
 単純に行動を決める丹羽に西園寺が言った。
「燃やすのは反対しないが、丹羽、優香が口頭で伝えただけで風窓の死を信じると思うか? 父親が失踪して鬱になるほど思い詰めている娘だ。証拠を出せと言われたら、どうする?」
「ああ、そうか……う~ん、まさか父親の遺体を燃やしましたとは言えねえよな」
「それはあまりにデリカシーがなさ過ぎます、丹羽会長」
 七条が呆れた様に首を振った。和希が意見を出す。
「なら、危険かもしれませんが、もう一度、遺体を調べませんか? もしかしたら、遺品か遺書の様なものが見つかるかもしれません」
「確かに先刻の『目星』は遺体の状態についての情報だったからな」
 どうしたものかと丹羽は軽く頭を掻いた。中嶋が静かに口を開く。
「優香を納得させたいなら、遺体の写真を撮るという手もある。予め言っておくが、それが再び糧になることはない」
 七条が不快そうに中嶋を見やった。
「娘さんに惨い遺体の写真を見せるとは、貴方らしい情の欠片もない方法ですね」
「なら、追剥ぎの様に遺体のポケットを漁れば良い。貴様にはそれが似合いだ」
 すかさず中嶋は言い返した。凍え始めた場の空気を丹羽の大きな声が吹き飛ばした。
「決めたぜ、中嶋……俺がポケットを漁る。これは俺が受けた依頼だ。最後まで俺が責任を持つ」
「……成程」
 中嶋はそっとダイスを振った。
(継続は2R(ラウンド)か)

中嶋 :丹羽は糧を燃やす前に優香に渡す遺品を探そうと風窓の遺体に触れた。その瞬間、お前
    は激情の渦に呑み込まれた。情愛、諦念、執着、悔悟、憎悪など様々な感情に翻弄されて
    一気に自分を見失う。丹羽はSAN(正気度)チェックなしで一時的狂気を発症する。何の脈
    絡もなく世の中の総てが敵であり、恨みの対象に思えて見境なく周囲の者を攻撃し始める。
丹羽 :やっぱり罠があったか。しかも、強制発狂かよ。
中嶋 :丹羽による先制攻撃だ。『マーシャルアーツ』+『こぶし』で判定する。回避は不可だ。対象
    は1D3で決める。1は西園寺、2は七条、3は遠藤だ。ダイスを振れ、丹羽。
丹羽 :誰も殺すなよ……!


1D3→2
丹羽 :マーシャルアーツ(81)+こぶし(85)→76 成功
2D3+1D4→5
七条 :HP(8)→3


丹羽 :うおおおっっっ……!!!
七条 :なっ……!
中嶋 :突然、暴力的な精神状態に陥った丹羽は近くにいた七条に襲い掛かった。強烈な拳を胸
    に受けて七条は床に倒れる。一度の攻撃でHP(耐久力)の半数以上を失ったので、ショック
    対抗ロールだ。CON(体力)×5以上を出すと気絶する。
七条 :ふふっ、丹羽会長は僕に何か恨みでもあるんでしょうか。
丹羽 :その微笑は怖いからやめろ、七条。


ショック対抗ロール(55)→95 失敗


七条 :失敗してしまいました。
中嶋 :武道の心得のある丹羽の手加減なしの攻撃は七条の肋骨を砕いた。その痛みで意識を
    失った七条は最後の夢を見た。鏡から溢れんばかりの期待、情愛、辛抱に満ちた大きな青
    い瞳がお前を凝視している。それは一つかと思えば、次の瞬間には無数の小さな目を瞬か
    せ、まるで禍々しい青空に混じった黒点の様だった。やがて青い瞳はずるりと鏡を抜けてこ
    ちらへやって来ると、多数の触手でお前を捉え、包み込んだ。幾重もの瞳から途切れること
    のない視線がお前に突き刺さる。優しい眼差しでお前から綺麗に肉を削ぎ、剥き出しにされ
    た骨をも寸断し、身体を切り刻む。そして、溢れる血や臓物と一緒に主たる青い瞳の元へ
    恭しく運んで行った。生きながら、微塵切りにされる魂と狂気……青い瞳の怪物はそれを受
    け取り、初めて満足そうな微笑を浮かべた。狂気を喰らうものゴグ=フールを目撃した七条
    は1D10/1D100のSAN(正気度)チェックだ。また、これ以降はNPC(ノン・プレイヤー・
    キャラクター)化する。
伊藤 :1D100……初めてですね、そんなに大きいの。
七条 :夢とはいえ、直接、旧支配者を見てしまいましたからね。せめてSAN値0にならないよう祈
    りましょう。


七条 :SAN(70)→83 失敗 1D100→41
    :SAN(70)→29 不定の狂気
    :アイデア(60)→07 成功 一時的狂気


七条 :ああ、一気にSAN値が減りました。
中嶋 :気絶しているので、不定の狂気だけ1D10で決めろ。
七条 :2です。
中嶋 :激しい恐怖症だ。七条は無事に生還したとしても、半年間はそれに苛まれることになる。
七条 :なら、僕はゴグ=フールを連想させる青と視線に激しい恐怖を感じることにします。次は僕
    がKP(キーパー)ですし、半年間、引き籠もっています。
伊藤 :七条さん、不定の分と合わせて9の『クトゥルフ神話』を追加しますね。


七条 :クトゥルフ神話(18)→27


中嶋 :描写を続ける。発狂中の丹羽は力ずく、もしくは『精神分析』か交渉系の技能の半分の値
    で正気に戻すことが出来る。
西園寺:力ずくは最後の手段だ。
遠藤 :そうですね。まずは俺の『言いくるめ』を振ってみます。
中嶋 :端数は切り上げる。ロールしろ。


遠藤 :言いくるめ(45/2)→31 失敗


遠藤 :はあ……出目は悪くないんですが……
中嶋 :遠藤の言葉は全く丹羽に響かなかったが、狂気を落ち着かせる時間は稼げた。これで丹
    羽は正気に戻る。
丹羽 :なら、俺は我に返って呟くぜ。俺は、一体……
西園寺:正気に戻ったか、丹羽。
丹羽 :郁ちゃん……そうだ。七条さんは!? まさか死んだのかっ……!?
遠藤 :大丈夫です。まだ息はあります。でも、重傷なので早く病院へ運ばなければなりません。
丹羽 :そうか……後で七条さんに謝らねえとな……
西園寺:何があった?
丹羽 :……良くわからねえ。ただ、遺体に触れた瞬間、色々な感情が押し寄せて周りが全部、敵
    に見えたんだ。それで……
遠藤 :糧には怨念が籠もっているので、その影響を受けたのかもしれません。
西園寺:迂闊に触れるのは危険だな。
丹羽 :ああ、ここに中嶋のライターがある。これで遺体を燃やそうぜ。そう言って俺はポケットから
    ライターを取り出す。
中嶋 :なら、そのとき、丹羽は自分が何かを握り締めていることに初めて気がついた。それは小
    さなボイス・レコーダーだった。
丹羽 :再生する。
中嶋 :静かな部屋に途切れ途切れに男の声が響き渡る。
風窓 :優香……僕の、自慢の娘……不甲斐ない父を、許してくれ、とは……言わな、い……だが
    ……最後に、もう一度……お前に、会いたかった……
丹羽 :これは風窓さんの声か……風見さんには辛いだろうな。
西園寺:だが、何もないよりかは救われる。
遠藤 :そうですね。これがあれば、遺体がどうなったかを知らせる必要はないでしょう。
丹羽 :俺はボイス・レコーダーを大切にポケットにしまう。


「後は糧を燃やすだけだが、その前に一つ提案がある」
 西園寺の言葉にすぐさま丹羽が反応した。
「俺からもあるぜ。郁ちゃんと遠藤は七条を連れて外へ出てくれ」
「いえ、それは俺がやります。俺のPC(プレイヤー・キャラクター)は警察官です。自分だけ逃げる訳にはいきません」
 和希は反論した。しかし、西園寺は大きく首を振った。
「お前達は駄目だ。臣の最後の夢でPL(プレイヤー)には敵の正体がわかったが、PC(プレイヤー・キャラクター)の前に現れた訳ではない。糧を破壊しようとしたら、最悪、ゴグ=フールが現れる。危険を冒すのは私一人で充分だ」
 七条もそれに同意する。
「僕も郁に賛成です。ゴグ=フールが現れたとしても、郁のSAN(正気度)なら耐えられます。ここは全員の生還を第一に考えるべきです」
「俺のSAN値はまだ60近くある。ここでメタな行動を取ったら、今までのRP(ロール・プレイ)が無駄になる。俺は絶対、ここに残る」
 丹羽は頑として主張を変えなかった。西園寺は短く嘆息した。
「そこまで言うのならば、丹羽はロストしても自業自得だ。遠藤、お前も同じ覚悟か?」
「和希、死ぬ気なのか……?」
 突然、啓太が不安そうに口を挟んだ。ふわりと和希は微笑んだ。
「ここで一人逃げたら、俺は啓太に会わす顔がないだろう」
「そう、だけど……でも……」
 啓太は口唇を噛み締めた。
 先刻、チラッとシナリオを見てしまったので、この後、ゴグ=フールが現れると啓太は知っていた。それを言ったら和希を止められるかもしれないが、皆で作り上げたこの話を台無しにしてしまう。多少なりとも演劇を齧った啓太にそんなことは出来なかった。すると、西園寺が言った。
「遠藤、お前が自然に外へ出られるよう私がRP(ロール・プレイ)を入れる。そうしたら、素直に撤退するか?」
「勿論です。出来れば、俺もロストは避けたいですから」
 西園寺の考えを察して和希は小さく頷いた。パッと啓太の顔に期待が浮かんだ。中嶋が全員を見回す。
「なら、西園寺のRP(ロール・プレイ)から再開する」

西園寺:私は気絶した臣の様子を見て言う。遠藤、糧を燃やす前に臣を外へ運び出して欲しい。
    臣は肋骨が折れている。臣ほど体格のない私では折れた肋骨が内臓を傷つけるかもしれ
    ない。そして、可能ならば、ここへ救援を頼む。臣と啓太を一刻も早く病院へ運びたい。
遠藤 :わかりました。救援なら俺から要請した方が早いでしょう。残してきた啓太の具合も気にな
    るので、先に俺は先刻の場所まで戻ります。糧の破壊は宜しくお願いします。そう言って俺
    は二人に小さく頭を下げます。
中嶋 :対抗ロールはなしで良い。遠藤は気絶した七条を担いで外へ運び出した。
西園寺:チラッと丹羽を見て呟く。お前も外へ出るか、丹羽? 正直、先刻の様になったら、私一人
    では手に負えない。
丹羽 :それは出来ねえ……悪いな。
西園寺:ああ、わかっている。私も、それは出来ない。
丹羽 :なら、覚悟を決めて……やるぜ。俺は遺体に触れないよう気をつけて火を点ける。
中嶋 :丹羽はライターを取り出すと、無言で風窓の服に火を点けた。小さな火種は徐々に燃え広
    がり、やがて遺体は総て炎に包まれた。玄朗の言う通りなら、これで悪夢は断ち切れるだろ
    う……優香には辛い報告をしなければならないが。丹羽と西園寺は悲痛な表情で踵を返し
    た。その瞬間、臓腑が凍りつくほどの巨大な恐怖を感じた。背後から耳元で蠢く様な低い音
    が聞こえる。お前達はそれを言葉として認識するのを本能的に拒否した……が、嫌でもわ
    かってしまった。底知れぬ狂気がお前達を望んでいる。喰わせろ、と……



2020.3.13
二人目の脱落者です。
狙った獲物は逃がさない中嶋さんの片棒を担がされた王様
……不運としか言い様がありません。

r  n

Café Grace
inserted by FC2 system