丹羽 :さあ、ここからが正念場だ。六割あれば、いける! 俺は絶対、生きて帰る!
中嶋 :なら、丹羽と西園寺は五臓六腑をむしり取られる様な声にまずはSAN(正気度)チェック、
    1/1D4+1だ。但し、狂気判定は今は保留する。
西園寺:終盤にきて漸く私の初SAN(正気度)チェックか。まあ、問題ないだろう。


丹羽 :SAN(57)→72 失敗 1D4+1→5
    :SAN(57)→52
西園寺:SAN(90)→94 失敗 1D4+1→5
    :SAN(90)→85


丹羽 :ぬおおおっっっ……!!!
西園寺:馬鹿な……この値で失敗、だと。
伊藤 :しかも、まさかの最大値……
中嶋 :激しい恐怖に凍りついた丹羽と西園寺は突然、脅迫的なまでに鏡を見なければならないと
    いう思考に囚われた。目だけで周囲を見回すと、入口の左横の壁に先ほどまではなかった
    鏡が掛かっている。その中から溢れんばかりの期待、情愛、辛抱に満ちた大きな青い瞳が
    お前達を凝視していた。まるで巨大な生物の頭部にも見えるそれは、時折、無数の小さな
    目を口づける様に艶めかしく瞬かせ、開閉を繰り返している。鏡に潜む旧支配者、ゴグ=フ
    ールを目視した丹羽と西園寺は成功で1D10、失敗で1D100のSAN(正気度)チェックだ
    ……さあ、神に祈れ。
丹羽 :くっ、俺は直葬もありか。


丹羽 :SAN(52)→92 失敗 1D100→13
    :SAN(52)→39 不定の狂気
西園寺:SAN(85)→75 成功 1D10→2
    :SAN(85)→83


丹羽 :お~っ、見ろ! 耐えたぜ!
    (危ねえ。出目が逆なら死んでたぜ)
伊藤 :凄いです、王様!
遠藤 :本当に王様はいつも紙一重のところで女神に救われますね。
七条 :郁は判定の出目は高かったんですが、減少値は殆ど最低ですね。
    (KP(キーパー)としては、これは厄介です。基本的に郁は危険なRP(ロール・プレイ)をし
    ないからSAN値を削り難いんですよね)
西園寺:旧支配者と遭遇して減少値7ならば、総じて成功と考えて良いだろう。
中嶋 :喜ぶのはまだ早い。二人はここで先刻の一時的狂気の有無を決める。『アイデア』を振れ。


丹羽 :アイデア(75)→01 クリティカル 一時的狂気
西園寺:アイデア(75)→74 成功 一時的狂気


「ダブル発症……まあ、わかってたけどよ」
 ガックリと丹羽は肩を落とした。出目を確認した啓太が優しく慰める。
「この値では失敗する方が難しいですよね」
 七条が小さく頷いた。
「人間には理解すら及ばない神話的脅威を前に正気を失ってしまうのは仕方のないことです。でも、僕としては神話技能が増えるので羨ましい限りですけどね」
「……」
(俺は要らないけど……)
 喉元まで出掛かった言葉を啓太は呑み込んでキーボードへ手を伸ばした。一応、付与する数値を確認する。えっと……
「王様は初発狂と不定なので13、西園寺さんは初発狂の分として5の神話技能を追加しますね」
「おっ、漸く神話技能がきたぜ。これならワンチャンあるな」
「……私はまた上限が削れてしまうのか」
 西園寺はため息をついた。神話技能の分だけSAN値の上限は削れるので、魔導書を読む気が全くなければ、ただの不利益でしかなかった。中嶋が処理を続ける。
「丹羽のクリティカル効果は後にし、まずは狂気の内容を決める。丹羽は短期と長期、西園寺は短期の狂気表で1D10を振れ」
 ……カツン、カツン。
 ダイスが机に当たる硬い音が響いた。ほっ、と丹羽は胸を撫で下ろした。
「俺はどっちも7だ。殺人癖を引かなくて助かったぜ」
「私は2だ」
「丹羽の一時的狂気は幻覚、あるいは妄想だ。不定は心因性の視覚や聴覚、または四肢の機能障害だが、今回は睡眠障害か鏡恐怖症でも構わない。西園寺はパニック状態になって逃走する」
 それを聞いた西園寺は小さく腕を組んだ。背後にゴグ=フールがいて次に何が起こるかは考えるまでもなかった。戦闘……しかし、それを口にする前に丹羽が言った。
「なら、丁度良い。郁ちゃんは逃げてくれ。ここは俺が囮になる」
「……一人残れば、死ぬぞ」
「まあ、それは仕方ねえな」
 丹羽は軽く肩を竦めた。そうか……と西園寺は低く呟いた。
「KP(キーパー)、丹羽のクリティカル処理として私の逃走を取り消して欲しい」
「郁ちゃん!?」
 慌てて丹羽が口を挟もうとするのを西園寺は瞳で制した。
「私は全員の生還を目指している。だから、ここで勝手に死なれては困る。それはお前も同じだろう、中嶋?」
「……」
 中嶋は無言で西園寺を凝視した。
(殺意には常に絶妙な匙加減と救済措置が求められる。それがなければ、KP(キーパー)のただの横暴でしかない……断る理由はないか)
「良いだろう。西園寺はパニックに陥ったものの、辛うじてその場に踏み止まった。丹羽、不定は決めたか?」
「ああ、鏡恐怖症にする。鏡でSAN値をごっそり持っていかれたからな」
「なら、三ヶ月の間、丹羽は鏡や姿を映すものに激しい恐怖を覚える。描写を再開する」
 そう言うと、中嶋はノートPCのキーを幾つか叩いた。スピーカーから綺麗に澄んだ歌声が流れてくる。それは合唱曲『Carol of the Bells』の替え歌にして、クトゥルフ(CoC)ファンの間では有名な『The Carol of the Old Ones(旧支配者のキャロル)』だった。狂信者達が高らかに歌い上げる……

 Look to the sky,way up on high    There in the night stars now are night
    (空を見上げよ、遥か高くを             夜空の星々が出揃えば)
 Eons have passed: now then at last Prison walls break,Old Ones awake!
    (永劫は過ぎ去り、今やがて            解かれし封印より、旧支配者が目醒める!)


中嶋 :偉大(おおい)なる存在を前に正気を失った丹羽と西園寺に鏡の中からゴグ=フールが襲
    い掛かる……が、二人は発狂中のために行動出来ない。回避も不可だ。但し、この戦闘は
    1R(ラウンド)で終わるので、生きてさえいれば助かる。ゴグ=フールのクリティカル効果は
    ダメージ二倍のみ、ファンブルは適宜、ショック対抗ロールは省略する。では、ゴグ=フール
    の攻撃。対象は全員だ。丹羽から順番に処理する。
丹羽 :頼む! 耐えてくれっ……!


ゴグ=フール:触肢(90)→??


伊藤 :あっ……!
中嶋 :残念だったな、丹羽、クリティカルだ。お前はゴグ=フールの触手と幻覚の区別がつかず、
    直撃を受けてしまった。
丹羽 :ぐはっ!!


2D6→6
丹羽 :HP(10)→4


中嶋 :触手に肩から大きく切られ、丹羽はガクッと膝をついた。痛みと出血で朦朧とする意識の
    中、遅ればせながら、お前は漸くこれが現実だと気づくだろう……次、西園寺。
丹羽 :ふう、死んだかと思ったぜ。


ゴグ=フール:触肢(90)→??


中嶋 :成功だ。ダメージを出す。
七条 :郁なら大丈夫でしょう。
西園寺:ああ、最大値以外ならな。
七条 :郁、それはフラグになるので、口にしない方が良いですよ。
西園寺:私はフラグなど気にしない。


1D6→2
西園寺:HP(12)→10


西園寺:ほら、関係ないだろう。
七条 :ふふっ、郁は自らフラグをへし折っていきますね。
中嶋 :鏡から伸びた触手はパニックで動けない西園寺の左腕を切り裂いた。痛みで正気に戻っ
    た二人の前で、ゴグ=フールの触手が再び鎌首をもたげた。先端に付いた小さな目が熟れ
    た狂気を期待し、お前達をじっと凝視する。魂の深淵までも見通す、その冒涜的な視線は矮
    小な人の身には過ぎて痛みにも似ていた。お前達は直ぐに訪れるだろう死を覚悟した……
    が、なぜか触手は大きく項垂れると、ずるずると鏡の中へ戻って行った。そして、まるで八つ
    当たりでもするかの様に最後にパンッと鏡を弾き飛ばした。呆然とする二人の前で、宙に浮
    き上がった鏡は綺麗な弧を描いて床で砕け散った。丹羽と西園寺はRP(ロール・プレイ)で
    脱出しろ。
丹羽 :……助かった、のか……?
西園寺:そうらしい……なぜ、私達を見逃したかはわからないが。
丹羽 :……っ……取り、敢えず……出よう、ぜ……
西園寺:ああ、と頷いて丹羽に肩を貸す。
丹羽 :おっ、優しいな、郁ちゃん。
西園寺:ただのRP(ロール・プレイ)だ、ただの。
七条 :大事なことなので二回、言いましたね。
丹羽 :まあ、HP(耐久力)4ではまともに歩けねえし、素直に郁ちゃんの肩を借りるぜ。
    (あまり茶化すと、『応急手当』を振って一人で歩けって言われそうだしな)
西園寺:KP(キーパー)、建物を出る前に念のため風窓の遺体を振り返る。何か異変はあるか?
中嶋 :いや、まだ燃えているが、あと数十分もすれば跡形もなくなるだろう。機材も殆ど持ち出さ
    れているので、他に延焼する心配もない。
西園寺:ならば、ここを離れても平気だな。丹羽と一緒に外へ出る。
中嶋 :建物を後にしたお前達が下流へ向かって暫く河原を進むと、先ほど襲われた辺りで一人
    佇む遠藤の姿が見えた。なぜかしきりに空を見上げているので西園寺も目をやれば、遠く
    からこちらへ近づいて来るヘリコプターの音が聞こえた。そのとき、二人は漸く実感した。日
    常が戻ったことを。恐ろしい悪夢は終わった、と。以上で『後追い夢』はクリアだ。生還、おめ
    でとう。


「おめでとうございます」
 啓太は嬉しそうに手を叩いた。七条がふわりと微笑んだ。
「伊藤君もSKP(サブ・キーパー)、お疲れ様でした。大変だったでしょう?」
「いえ、PL(プレイヤー)とはまた違って結構、楽しかったです。前にKP(キーパー)は裏方とか全能の神とか色々言ってた意味が少しわかった気がします。俺もその内、やってみたいです」
「お前にKP(キーパー)はまだ早い。まずはシナリオから脱落しないよう立ち回れ」
 ピシャリと中嶋は言った。
「……はい」
「だが、SKP(サブ・キーパー)としては良くやった。このシナリオは殆ど分岐はないものの、SAN値や狂気判定が多い。お前がそれをきちんと管理したので、俺の負担はかなり軽減された。また俺がKP(キーパー)をするときは、最初からSKP(サブ・キーパー)として使っても良い」
「……! 有難うございます、中嶋さん」
 少し落ち込み掛けた啓太はその言葉に直ぐ浮上した。まるで子犬が尻尾を振って喜ぶ様な素直な反応に中嶋の瞳が少し柔らかくなる。
「中嶋さん、クリアしたなら早く解説をしてくれませんか?」
 和希が不機嫌そうに口を挟んだ。中嶋が喉の奥で低く笑った。
「情報の取り零しはない。このシナリオは意図して外れようとしなければ、ゴグ=フールの元まで辿り着ける。大きく改変したのは河原での戦闘だ。本来、あれは建物に到着してから起こるものだが、難易度の調整を兼ねて川の水鏡を使ってゴグ=フールの片鱗を見せることにした」
 丹羽が小さくぼやいた。
「あのとき、『幸運』に失敗した七条にだけ情報が出たから、ろくなもんじゃねえとは思ってたが、あれはお前の考えかよ」
「シナリオ通りなら糧の周囲には鏡が置かれている。建物に入った瞬間、SAN(正気度)チェックだ。場合によっては同時に戦闘も起こる。その方が良かったか……?」
「……KP(キーパー)の温情に感謝します」
「シナリオの分岐についてだが、本筋には全く関係ない点で一ヶ所だけある。それは風窓の遺品を入手するかどうかだ」
「ああ、丹羽会長がボイス・レコーダーを入手して僕を脱落させた、あのときですね」
 ポンッと七条は態とらしく手を叩いた。思わず、丹羽は顔を顰めた。西園寺が尋ねる。
「あそこは遺品を入手するのが正解と思うが、ボイス・レコーダー以外でも良かったのか?」
「遺品を入手しようがしまいが、エンディングまでの流れは同じだ。ただ、後日談での優香の扱いが異なる。その説明をする前に、まずは各自の後日談をした方が良いだろう」
 そうして中嶋は最後の描写を始めた。

中嶋 :重傷の丹羽と七条は遠藤からの救援要請で派遣されたドクター・ヘリで急ぎ病院へと運ば
    れた。そこで二人は怪我と精神的な治療のために入院することになった。社会復帰には暫
    く時間が掛かるだろう。遠藤は事後処理に忙しい日々を過ごしている。河原で襲ってきた者
    達は精神的に酷く不安定で身元の確認すらままならなかった。唯一の顔見知りである俺に
    至っては会話も出来ないほど精神が摩耗した上に極度の光恐怖症になっていた。当分、残
    業は避けられそうにない。啓太は怪我こそないが精神の疲労が激しく、今は自宅で安静に
    している。そして、西園寺は入院中の丹羽からボイス・レコーダーを受け取ると、風窓の家
    へ向かった。ほんの数日前に会ったばかりにもかかわらず、優香は更にやつれて焦燥して
    いた。西園寺は事の顛末を掻い摘んで説明した後、ボイス・レコーダーをそっと差し出した。
    優香は震える手でそれを再生するや否や、その場に泣き崩れた。父を失った娘の悲しみは
    大きく、西園寺は為す術もなく家を辞した。それから暫くして風の噂に、優香が風窓のコレク
    ションをどこかへ寄付したと聞いた。父を弔って気持ちに区切りがついたのだろう。西園寺
    は一人静かに優香の行く末に幸多からんことを願った。これで後日談も終了だ。


「優香さん、立ち直ったんですね。良かった」
 ほっと啓太は胸を撫で下ろした。中嶋が説明する。
「優香にボイス・レコーダーを渡したからな。渡さなかった場合、優香は風窓の死を受け入れることが出来ず、数日後に自殺する」
「えっ!?」
 驚いた啓太が声を上げた。西園寺が僅かに柳眉をひそめた。
「導入で優香に鬱の兆候が見られたのはその前振りか」
「ああ、お前達がそれに気づき易いよう優香の性別も変えた。元のシナリオでは息子になっている」
「確かに父親の死で自殺するなら、息子より娘の方が思いつき易いな」
 丹羽は頷いた。和希が尋ねる。
「なら、遺体の写真を渡したら、どうなるんですか?」
「シナリオにはないが、探索者が風窓の遺体に触れない場合を想定して俺が付け加えた。その場合も優香は自殺する。優香が自殺を思い留まるには風窓の思いを知る必要がある。死の証拠だけでは不十分だ。それをより強調するために遺品も血文字の手紙からボイス・レコーダーに改変した。まあ、別の理由としては風窓があの状態で手紙を書けると思えなかったのもあるが」
「成程……では、あのとき、僕達に遺体の写真を撮るよう勧めたのはKP(キーパー)のミスリードだったんですね」
 七条が不快そうに呟いた。中嶋が冷たい視線を投げる。
「ミスリードではない。俺は安全にシナリオをクリアする方法を口にしたまでだ。ボイス・レコーダーを入手しようとすれば、確実にPvPになる。貴様の様に脱落したり、あるいはキャラ・ロストするかもしれない。KP(キーパー)として、それを避ける方法を提示するのは当然だ」
「そのために優香さんが死んでも構わないと言うんですか?」
「それを決めるのは俺ではない」
「ハッピー・エンドに水を差しておきながら、酷い責任転嫁ですね」
「いい加減にしろ、二人とも」
 やむことのない応酬を強引に丹羽が遮った。すっと中嶋が立ち上がった。
「全くだ。俺は不毛な言い争いを続ける気はない。疲れたので、さっさと移動する。啓太、冷蔵庫にあるものを持って会計室へ来い」
「あっ、はい」
 啓太は急いで給湯室ヘ向かった。和希が鋭く中嶋を睨みつけた。
「中嶋さん、啓太を召使の様に使うのはやめて下さい」
「そんなことはしていない」
「現に今――……」
「ああ~っっっ!!!」
 突然、啓太の悲鳴が上がった。次の瞬間、給湯室から飛び出して来る。
「中嶋さんっ!! これ、あそこのっ……!」
 啓太は両手に白い大きな箱を持っていた。興奮を抑え切れないその様子に中嶋は小さく口の端を上げた。
「ほう? 知っていたか」
「当たり前です! これは今、大人気のブリュレバウムの中でも『春限定 苺のブリュレバウム』ですよね! しかも、一日五個限定の『初恋の香りを添えて』じゃないですか!」
「何だ、それ?」
 丹羽が首を傾げた。啓太の瞳がキラキラと輝き出した。
「これは苺のバウムクーヘンにクレームブリュレを組み合わせた『春限定 苺のブリュレバウム』の中でも、苺のカスタード・グラタンをソースに希少な白苺・初恋の香りをふんだんに使った苺好きには堪らない苺です!」
「へえ~……ってか、苺じゃねえだろう」
「しかも、今週末までの期間限定の上にお店は土日が休みだから平日しか売ってないんです。俺、凄く買いに行きたかったけど、平日は授業があるから諦めてたのに……」
 感極まった啓太は恍惚と箱を見つめた。相変わらずの苺好きだなと思いながら、丹羽はチラッと中嶋へ瞳を流した。
(今日、朝から外出してたのは態々これを買いに行ってたのか。こんな甘そうなやつを、あの中嶋がねえ……)
 思わず、にやけそうになる口元を丹羽は気合で引き締めた。中嶋はドアへ向かいながら、誰とはなしに言った。
「こいつの説明した通りだ。ぐずぐずしていると、気温で風味が落ちる」
「そうですね。早く会計室へ行って切り分けましょう、中嶋さん」
 啓太はドアを開けると、中嶋について出て行った。啓太の苺話に呆気に取られていた和希が弾かれた様に二人の後を追う。
「啓太、苺なら俺がっ……!」
 廊下を走り去る音を聞きながら、西園寺はため息をついた。
「全く……騒々しい。苺は逃げはしない」
「ふふっ、伊藤君は苺が大好きですからね。僕も、あそこの苺のブリュレバウムは食べてみたかったんです」
 嬉しそうな七条に丹羽が意外そうに言った。
「七条がまだ食ってねえなら、よっぽどのレアなんだな。でも、良いのか……?」
 中嶋の買った物だぜ、と言外に匂わすと、七条は張り付いた微笑を浮かべた。周囲の温度が少し下がった気がする……
「誰が買おうと、美味しさに変わりはありません。そんなことを言ったら苺に失礼ですよ、丹羽会長」
「あ~、はいはい」
(さり気なく中嶋をディスるよな)
 丹羽はガシガシと頭を掻いて立ち上がった。
「さあ、俺達も行こうぜ。話し過ぎて喉が疲れた。コーヒーでも紅茶でも何でも良いから飲ませてくれ」
「では、今日は苺に合う紅茶を淹れますね」
「臣、丹羽にそんな繊細な味はわからない。水……いや、経口飲料水でも出しておけ」
「げっ、あれ、まずいじゃねえか」
 露骨に顔を顰める丹羽を見て西園寺は上機嫌に生徒会室を出て行った。丹羽は何とか西園寺の機嫌を取ろうと慌ててその後に続いた。最後に残った七条はきちんと戸締りを確認すると、ゆっくり会計室へ向かって歩き始めた。その背中で黒い翼が小さくはためく。
「さて、次で五回目のセッションです。そろそろ、誰か死んでも良いですよね……?」



2020.5.8
辛うじて中嶋さんを助けることが出来ました。
あと数時間、遅かったら危なかったです。
展開がダイス任せなので、ドキドキしました。
無事に生還出来て良かったです。

r  m

Café Grace
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