七条 :貴方達が気がつくと、そこは正方形の四角い部屋でした。がらんとした室内に着の身着の
    まま、無造作に放り込まれています。持ち物は何もありませんが、衣服や眼鏡など普段から
    身に着けているものはそのままです。磁器の様に冷たく硬い床に倒れていたせいか、身体
    がかなり強張っています。取り敢えず、全員、起きて下さい。
丹羽 :なら、俺は低く呻きながら、立ち上がるぜ。うっ……ここ、は……
中嶋 :動きの鈍い身体を叱咤して無言で立ち上がる。
西園寺:私もぎこちなく起き上がる。
遠藤 :俺は辺りを警戒しつつ、慎重に立ち上がります。
伊藤 :よろよろと起き上がります。痛っ……ううっ……
七条 :それぞれ立ち上がった貴方達は、一体、何が起きたのかと思うでしょう。しかし、不思議な
    ことに、ここへ来る直前の記憶が一切、ありません。なぜ、ここにいるのか。そもそも、ここは
    どこなのか……全くわかりません。それ以外は特に異常ありません。身体の強張りも、動き
    始めたら直ぐに消えました。手掛かりを求めて周囲を見回すと、漸く互いの存在と四方の壁
    に一つずつある扉に気がつきました。以降、その扉を東西南北で呼びます。東と西は洒落
    た木の扉、南は小さな覗き窓の付いた重厚な鉄扉、北は豪奢な白い扉で少しだけ開いてい
    ました。更に部屋の中央には二枚の紙が落ちています。さあ、自由に探索を始めて下さい。
丹羽 :それじゃあ俺からいくぜ。何だ? 皆、ここにいるのか。
中嶋 :そうらしいな。全く……手荒い歓迎だ。
伊藤 :どこだろう、ここ……俺達、どうしてこんな処に……
西園寺:私にもわからない。なぜか、ここへ来るまでのことが思い出せない……遠藤、何か心当た
    りはないか?
遠藤 :いいえ、過去に似た様な状況の記録を読んだことはありますが、まだ何とも……
丹羽 :あの紙に何か書いてあるんじゃねえか。そう言って俺は中央に落ちてる二枚の紙を拾う。
七条 :それには奇妙な文章が書かれていました。特に技能は要らないので、皆に聞こえるよう読
    み上げますか?
丹羽 :SAN値が減らないならな。勿論、裏もきっちり見るぜ。
七条 :では、一枚目の表には鏡文字のひらがなでこう書かれていました。


かえりたいなら いれかわった もうひとりを ころさないといけない


七条 :裏には漢字混じりで更に追加の文があります。これは普通の文字です。


気をつけて 君がもう一人を狙ってる様に もう一人も君を狙ってる


七条 :二枚目の紙はこの部屋の地図です。今の部屋は中央の部屋、北は鏡の部屋、東は必要
    の部屋、南はポチの部屋、西は本の部屋と書いてあります。裏には何もありません。


「おいおい、いきなり物騒だな」
 丹羽が顔を顰めた。
(成程……中嶋が鏡を見るときのPOW(精神力)対抗は一応、七条の温情だったのか。わかり難い奴だな、全く)
 西園寺が腕を組んで言った。軽く中嶋を見やる。
「どうやら鏡が鍵の様だな」
「ああ、だから、俺は前へは出ない。鏡への恐怖がまだ残っているからな」
「なら、探索は二手に分かれませんか?」
 和希が提案すると、丹羽はすぐさま同意した。
「それが良いだろうな。今回も時間制限がありそうだ。まずは俺と郁ちゃん、遠藤で鏡の部屋へ行こうぜ。KP(キーパー)が、いかにもって感じに誘ってるからな。見てやるのが礼儀だ。中嶋と啓太は後方で探索をしてくれ。啓太は中嶋が発狂したら、直ぐ『精神分析』だ」
「わかりました」
 コクンと啓太は頷いた。

七条 :では、紙を見て話し合った貴方達は二手に分かれて探索することにしました。まずは丹羽
    会長と郁、遠藤君の三人は北にある鏡の部屋へ行くことにしました。その扉は少しだけ開
    いています。どうしますか?
丹羽 :今、その扉を開けたら、後ろにいる中嶋達にも中の様子が見えるのか?
七条 :見えます。
丹羽 :なら、隙間から覗くことにする。良いよな、郁ちゃん?
西園寺:ああ……覗き見など不本意だが、仕方がない。
遠藤 :室内へ入る場合、扉は出来るだけ細く開いて俺、西園寺さん、王様の順で入れば良いと
    思います。王様のSIZ(体格)なら、それで啓太達の目隠しになるはずです。
丹羽 :ああ、それで行こう。
七条 :三人が扉の隙間から中を窺うと、正面の壁が大きな鏡になっているのが見えました。その
    前に一人の男が立っています。彼の息はとても荒く、肩が上下に激しく揺れていました。鏡
    に映るその顔は、まさに鬼気迫る表情とでも言うのでしょうか。とても正気とは思えません。
    そして、前に突き出した両手には鈍色の拳銃が握られていました。
遠藤 :拳銃に『目星』を振って本物かどうか確かめます。
七条 :必要ありません。警察官なら質感などから本物だと直ぐわかるでしょう。ちなみに、拳銃は
    リボルバーで既に撃鉄が上がっています。三人はここで『聞き耳』を振って下さい。
丹羽 :……
    (やけに『目星』なしで情報が出るな)


丹羽 :聞き耳(31)→29 成功
西園寺:聞き耳(79)→32 成功
遠藤 :聞き耳(27)→90 失敗


七条 :貴方達に背を向けている男は小声で何かぶつぶつ呟いていますが、失敗した遠藤君は拳
    銃に意識が集中してしまって聞き取れませんでした。成功した丹羽会長と郁にはこの様に
    聞こえます。
 男 :くそっ、他の奴らはあの化け物に殺されたが、俺は同じ轍は踏まねえ! これで……これで
    帰れるはず、なんだ……きっと……これ、で……
七条 :貴方達が息を潜めていると、突然、男は雄叫びの様な大声を上げながら、震える指で鏡に
    向かって引き金を引きました。バンッ……! その瞬間、男の頭が木端微塵に吹き飛びまし
    た。
西園寺:なっ……!
七条 :赤黒い血と肉片が扉の隙間から見ている貴方達の方にまで飛び散り、頭を失った身体は
    力なく後ろへ倒れました。男の無惨な死に改めて異常な状況を自覚した貴方達はSAN(正
    気度)チェックです。成功で1、失敗で1D6を喪失します。
遠藤 :分かれて正解でしたね。


丹羽 :SAN(56)→82 失敗 1D6→3
    :SAN(56)→53
西園寺:SAN(85)→73 成功
    :SAN(85)→84
遠藤 :SAN(39)→32 成功
    :SAN(39)→38


七条 :恐ろしい光景に丹羽会長は酷く動揺してしまいました。郁と遠藤君は銃を見たときに何か
    を予感していたのか、そこまでの衝撃(ショック)は受けませんでした。
丹羽 :思わず、扉から後退る。な、何だ、今のは……
西園寺:急いで扉を閉める。
遠藤 :俺は反射的に銃を取り出そうとします。
七条 :では、一先ず郁は冷静に扉を閉めました。遠藤君は今更ながらに銃を持っていないことに
    気づいて少し不安を覚えます。次の行動を決めて下さい。


「このまま、北の部屋へ行くしかない」
 西園寺が即座に言った。ああ、と丹羽は頷いた。
「ここは俺達で調べねえと、中嶋が発狂するからな。俺と郁ちゃんなら多少のSAN(正気度)チェックには耐えられる。だが、遠藤はどうする? 待機するか?」
「いえ、俺も行きます。ここがどこであれ、事件を目撃した以上、俺には調べる義務があります」
 正直、SAN値が不安だったが、和希は警察官としてのRP(ロール・プレイ)を優先した。たとえ、TRPGの中でも、啓太の前で情けない行動は出来ない。すると、丹羽が楽しそうに拳を握り締めた。
「良い心掛けだ。なら、発狂したら、俺がまた『精神分析(物理)』をしてやる。安心しろ、遠藤」
「全く安心出来ないのは気のせいではないですよね」
 そう言って和希は小さくため息をついた。

七条 :暫くして動揺の落ち着いた貴方達は再び北の扉へ向かいました。出来るだけ細くドアを開
    け、三人は素早く室内へ滑り込みます。ここで一旦、場面を切ります。少し時間を戻して中
    央の部屋に残る二人の描写をします。どうしますか?
中嶋 :もう一度、紙を見たい。丹羽が持っているのか?
七条 :床に置いたとは言いませんでしたから、そうでしょうね。
丹羽 :なら、北の扉へ向かう前に中嶋に渡すぜ。何があるかわからないから預かっておいてくれ
    とか言ってな。
七条 :わかりました。では、貴方は丹羽会長から預かった二枚の紙に視線を落としました。書い
    てある内容は先刻と同じです。
中嶋 :地図を確認する。北の部屋を上にすると、東の部屋は右か?
七条 :いいえ、東の部屋は左側にあります。


 えっ、と啓太は目を瞠った。
「それって変ですよね。左右が逆になってます。良くわかりましたね、中嶋さん」
「丹羽が紙を見たとき、KP(キーパー)が『目星』なしで情報を出したからな。俺達にあまり気づかれたくなかったのだろう。これでここがどういう場所か凡そわかったはずだ。それを踏まえた上で……啓太、お前はこれからどうする?」
 中嶋は静かに尋ねた。啓太は少し考え込んだ。
(多分、ここは鏡の中だよな。地図が反転してるし……だから、俺達は元の世界へ戻る方法を探さないといけない)
「……南の部屋を見ます。でも、まだ中には入りません」
「理由は?」
「東と西は部屋の名前からして多分、情報が出ると思うんです。なら、探索する人数は多い方が良いですよね。失敗したら、二度手間になるし。南の部屋は鉄扉で何か危険そうだけど、覗き窓があるから、そこから中を見るだけなら大丈夫な気がするんです……駄目ですか?」
 最後の言葉を啓太は自信なさそうに付け足した。すると、中嶋は満足そうに口の端を上げた。
「いや、俺と同じ考えだ」
「良かった」
 ほっと啓太は胸を撫で下ろした。前回、中嶋に指摘された立ち回りをきちんと意識したので、素直に嬉しかった。中嶋は機嫌良くKP(キーパー)に方針を告げた。
「南の扉へ近づき、必要なら『目星』を振る。その後、覗き窓から室内を窺う」

七条 :なら、南の扉へ近づいた貴方達は鉄扉に貼ってある小さな紙に気がつきました。そのまま
    でも読むことは出来ますが、手に取りますか?
中嶋 :ああ、裏も確認する。
七条 :紙の表には普通の文字でこう書いてあります。


僕は暫く留守にするから ポチに餌をあげておいてね
餌は北の部屋にあるから 沢山あげてね


七条 :裏はこうです。


いけない いけない ポチは死んだんだった
今は二代目でステラって言うんだ


伊藤 :中に何かいるみたいですね。でも、北の部屋の餌って……
    (ううっ、先刻の人とかだったら、どうしよう……)
七条 :二人は『知識』の半分でロールして下さい。端数は切り上げます。


中嶋 :知識(85/2)→10 成功
伊藤 :知識(80/2)→00 ファンブル


伊藤 :ああっ……!
丹羽 :おっ、啓太の開幕ファンブルか。大抵、誰かがやるんだよな。
七条 :二人が紙を見ていると、突然、背後から大きな銃声が聞こえました。バンッ……! 失敗し
    た伊藤君はそれに驚いて、うっかり鉄扉に頭をぶつけてしまいました。HP(体力)が1減少
    します。
伊藤 :うわっ、痛っ……!


伊藤 :HP(10)→9


七条 :成功した人は、ステラとはラテン語で星を意味すると知っていました。
伊藤 :綺麗な名前ですね。
    (前のポチってのは犬かな。なら、ステラも……?)
中嶋 :KP(キーパー)、星に『クトゥルフ神話』を振る。
七条 :どうぞ。


中嶋 :クトゥルフ神話(30)→55 失敗


七条 :残念ですが、貴方は何も思い出せませんでした。仕方なく二人は覗き窓から室内を見てみ
    ました。しかし、そこには薄暗い空間が広がっているだけでした。『目星』を振るなら、きちん
    と扉を開けて下さい。
中嶋 :その必要はない。次の探索に移る前に、啓太、自分に『応急手当』を振って回復しろ。
伊藤 :あっ、はい……KP(キーパー)、『応急手当』を振ります。


伊藤 :応急手当(75)→18 成功
    :HP(9)→10


七条 :1しか減ってないので、全回復ですね。なら、ここで再び描写を鏡の部屋へと移します。



2020.7.10
中嶋さんの描写をする七条さんは、
内心、言い回しに苦労していそうです。
でも、きっと認めないけど。

r  n

Café Grace
inserted by FC2 system