「PL(プレイヤー)会議をしている間に僕は新しい紅茶を淹れてきます。では、ごゆっくり」
 そう言って立ち上がった七条は給湯室へ入って行った。丹羽が全員を見回す。
「今までの情報を整理するぜ。まず、ここは鏡の中の世界だ。メモが鏡文字になってるし、地図の東西も逆だからな。俺達を狙ってるもう一人とは鏡の中の自分で、多分、そいつを殺せば元の世界へ帰れる。だが、普通にやっても駄目だったから、この点は一先ず保留だ。まだ情報が足りねえ」
 そうですね、と頷いて和希が続ける。
「次の問題は『俺達がこの世界へ来たのはなぜか』ということですが、ここから先は慎重に探索した方が良いでしょう」
「……?」
 啓太は首を傾げた。
 最近、クトゥルフ(CoC)で遊び始めた啓太はRP(ロール・プレイ)の参考も兼ねて丹羽達の過去のセッションの音声記録を幾つか聞いていた。そこでは神の理不尽とも言える気まぐれで事件に巻き込まれる展開も珍しくなかった。当然、行動は慎重になる。だから、態々注意を喚起する和希の意図がわからなかった。
「啓太、『俺達がこの世界へ来たのはなぜか』というのはとても曖昧な言い方だと思わないか? これでは理由を差しているのか、方法を訊いているのかはっきりしない。でも、PL(プレイヤー)視点なら、どちらかは直ぐにわかる。俺達にこんなことをしたのはクマちゃんの姿を借りているニャルラトホテプで、あれは完全な愉快犯という設定だから理由など殆どないに等しい。つまり、この質問は方法を訊いているんだ。問題はそれをPC(プレイヤー・キャラクター)視点にする過程で発生するSAN(正気度)チェックをどうやって避けるかだ。西園寺さんはまだしも、SAN値の不安な俺達がここで発狂したら全滅の可能性もある」
「どうしてSAN(正気度)チェックが発生するってわかるんだ?」
 その質問には中嶋が答えた。
「方法については本の部屋を調べれば何かしらわかるはずだが、七条は必ずそこに魔導書を仕込んでいる。今までのセッションを思い出してみろ。七条はいつも魔導書に固執していた。なら、自分がKP(キーパー)のときに出さないはずがない。しかも、魔導書は物によっては見るだけ、触れるだけでもSAN値が削られる。何かしらの対策が必要だろう」
「確かに……」
 啓太は小さく頷いた。う~ん、と丹羽が唸った。
「先刻、合流したから情報交換して皆で本の部屋へ行く流れになるよな。その前に、郁ちゃんが魔導書を巧く回収するRP(ロール・プレイ)を何か入れてくれねえか?」
「……ふむ」
 西園寺は軽く中嶋を見やった。
「もし、お前が魔導書を見つけた場合、どうするつもりだ?」
「俺はオカルトには興味がない。だが、その本が普通の古書に見えたら、目を通そうとするだろう」
「ならば、本の部屋で見つけた本は必ず最初に私に見せるよう皆に言う。もし、それが貴重な古書ならば、慎重に扱わなければならないから不自然な提案ではないはずだ。職業柄、遠藤が真っ先に調べようとしても専門家の意見は無下に出来ないだろう」
「そうですね。それなら、俺も素直に西園寺さんに本を渡せます」
「なら、それで頼むぜ、郁ちゃん。出来れば、俺も魔導書には当たりたくねえから、そう言ってくれた方が渡し易い」
「わかった……これで残る問題は啓太だけか」
「えっ!? どうして俺が……?」
 突然のことに啓太は大きく目を瞠った。西園寺は、じっと啓太を見据えた。
「お前は自分のために誰かを殺せるのか?」
「……!」
「これまでのRP(ロール・プレイ)の傾向を考えると、お前は生還を諦めようとするのではないか?」
「……」
 啓太は無言で西園寺を凝視した。確かに……それは少し考えた。鏡の中の自分とはいえ、誰かを犠牲にするくらいなら、生還しなくても良いのではないか、と。しかし――……
「無理をしないで、啓太……いざとなったら、俺が鏡の中の啓太を撃つ」
 内心を察した和希が静かに啓太を見やった。中嶋が低く呟いた。
「相変わらず、身勝手な奴だ」
「……!」
 二人の視線が宙でカチンとぶつかった。
「この選択は啓太には酷です。もし、啓太が撃てなかったら、どうするんですか? たとえ、ゲームの話でも、俺は啓太が死ぬのを黙って見ているつもりはありません」
「TRPGは現実では起こり得ない状況を楽しむ遊びだ。シナリオの中でこいつが自分なりに考えて選んだ行動なら、その結果が死でも納得出来るだろう。だが、お前は身勝手な理由でその機会を奪おうとしている。啓太、お前は遠藤に殺して貰いたいのか?」
「いいえ」
 きっぱりと啓太は首を横に振った。和希の瞳が微かに動揺した。
「でも、撃てなかったら死んでしまうんだよ。誰かを殺すなんて選択、啓太には出来ないだろう。そういうことは俺がやる。俺は啓太にTRPGを楽しんで欲しい。だから、啓太は自分の楽しめる範囲でRP(ロール・プレイ)をすれば良いんだ」
「和希……俺、ちゃんと楽しんでるよ。でも、辛いからって楽な方に逃げたら、それも半減すると思うんだ。七条さんから借りた過去のセッションの音声記録の中で王様が言ってた。こういう苦悩こそがTRPGの華だって」
「啓太……」
「まあ、そんなこと言っても、まだどうしたら良いかわからないけどさ。でも、俺は最後までちゃんと楽しむつもりだよ。だから、大丈夫。そんなに心配しないで、和希」
 ふわりと啓太は微笑んだ。少し間を置いて、和希は小さく頷いた。
「わかった……最後まで一緒に楽しもう、啓太」
「うん」
 嬉しそうな啓太に中嶋が短く言った。
「お前も大分、TRPGがわかってきたな、啓太」
「有難うございます、中嶋さん」
 珍しく褒められたと無邪気に喜ぶ啓太に場の空気が和やかになった。よし、と丹羽が拳を叩いた。
「これで方針は決まったな……おい、七条、終わったぜ」
 一際、大きな丹羽の声を聞いて七条がティ・ポットとカップをトレイに乗せて給湯室から出て来た。温かい紅茶を全員の前に置く。
「時間があったので、皆さんの分も淹れておきました」
「おっ、サンキュー、七条」
 丁度温かいものが欲しかった丹羽がすぐさま礼を言った。RP(ロール・プレイ)や推理に夢中になっていると、飲み物を補給する機会を逸してしまいがちになるので、これは嬉しい心遣いだった。七条は自分の席に着くと、静かに全員を見回した。
「シナリオのクリア方法はもう凡そわかったと思います。再開する前に一つだけ言わせて貰いますが、僕は中途半端は認めません。それを心に留めて……さあ、皆さん、生還を目指して下さい」

七条 :では、中央の部屋で合流した場面から……まずは情報共有ですね。
中嶋 :俺から行こう。丹羽に声を掛ける。何があった?
丹羽 :うん? ああ、いや、ちょっと驚いただけだ。北の部屋から急にここへ戻されたからな。
遠藤 :あのクマちゃん……正体まではわかりませんが、何らかの神話生物ですね。
伊藤 :えっ!? 神話生物がいたのか!?
遠藤 :ああ、手編みのぬいぐるみだけどな。
    (啓太との再会を祈願して作った俺のクマちゃんを……!)
伊藤 :……?
    (何か和希から変な怒りを感じる)
西園寺:一度、情報を整理しよう。まずは、中嶋、お前達の方でわかったことを知りたい。南の部屋
    には何があった?
伊藤 :あっ、その……実はまだ入ってないんです。
西園寺:どういうことだ?
中嶋 :あそこには、ここの主が飼っているペットがいるらしい。ステラに餌をやれ、と張り紙がして
    あった。他とは明らかに違う頑丈な鉄扉からして恐らくステラは危険な生物に違いない。入
    るのは餌を入手してからの方が良い。
遠藤 :南はポチの部屋ですよね。なのに、名前はステラなんですか?
中嶋 :ポチは死んで、今は二代目になっているらしい。
遠藤 :KP(キーパー)、ステラに『クトゥルフ神話』を振ります。
丹羽 :俺も振るぜ。
    (露骨な名前だよな)
七条 :では、先ほど失敗した二人も含めて全員で振って下さい。五人もいたら、誰か成功するか
    もしれませんからね。


丹羽 :クトゥルフ神話(13)→98 ファンブル
中嶋 :クトゥルフ神話(30)→73 失敗
西園寺:クトゥルフ神話(14)→58 失敗
遠藤 :クトゥルフ神話(19)→08 成功
伊藤 :クトゥルフ神話(15)→46 失敗


「あっ……」
 啓太が小さく声を上げた。前回のセッションの最中に、丹羽の発案で誰が神話技能を最初に成功させるか賭けていたが、その結果が終に出た。丹羽が低く呟いた。
「やっぱり遠藤だったか。まあ、お前は女神に嫌われてるからな」
「はあ……それは、もう諦めました」
 持って生まれた運だけはどうにもならない、と和希は短く嘆息した。中嶋が小さく喉を鳴らした。
「だが、今回、女神の殺意は控えめだ。これは倒せない相手ではないからな」
「えっ!? 中嶋さん、ステラが何かもうわかってるんですか?」
 思わず、啓太は尋ねた。それじゃあ、ポチも……?
「ああ、俺達はサプリメントも読み込んでいるからな」
「サプリメント?」
 意味のわからない啓太に七条が説明する。
「基本のルール・ブックと一緒に使用する追加データ集のことです。たとえば、『クトゥルフ・バイ・ガスライト』は1890年代、産業革命を経て栄華を極めたヴィクトリア朝末期のイギリスを舞台にするために必要なデータが揃っています。『マレウス・モンストロルム』には様々な神話生物や神格について載っています。これは主にKP(キーパー)やシナリオを自作するときに役立ちますね」
「シナリオを作るなんて凄いですね」
 自分にはとても出来ないと啓太は素直に感心した。西園寺が口を挟む。
「サプリメンは読み物としても面白い上、幾つかシナリオも載っている。会計室にも何冊か置いてあるので、後で啓太にも見せてやろう。だが、今は……臣、早くシナリオを進めろ」
「そうですね。この話には切りがありませんから描写に戻ります。賭けメールの開封はシナリオ終了時にしますね。誰が勝者か楽しみです」
 ふふっ、と七条は微笑んだ。

七条 :では、神話技能に成功した遠藤君はステラというのはラテン語で星を意味し、そこから星
    の精という神話生物のことを思い出しました。その姿は透明で不可視の存在であり、吸血
    鬼の様に人間の血を吸うと言われています。この情報も共有しますか?
遠藤 :はい、俺はそれを全員に話して注意を促します。恐らく南の部屋にいるのは星の精と呼ば
    れる不可視の、謂わば吸血鬼の様な神話生物です。迂闊に入らなくて正解でした。
伊藤 :吸血鬼……いるんだ、本当に……
    (でも、星の精って綺麗な名前だな)
七条 :ファンブルを出した丹羽会長は神話生物と聞いて鏡に潜む旧支配者、ゴグ=フールのこと
    を思い出してしまいました。SAN値が1減少です。


丹羽 :SAN(52)→51


丹羽 :くそっ、俺の貴重なSAN値が……気を取り直して続けるぜ。北の部屋でのことはかくしか
    で良いよな。だが、人形が死体かもしれねえことは黙っとく。知ってたら、後で餌を取りに行く
    とき、SAN(正気度)チェックされそうだからな。
遠藤 :一通り情報共有が終わったのを見て俺はこう切り出します。これからですが、全員で本の
    部屋を調べに行きませんか? 現時点で必要の部屋は何の意味があるか不明ですし、ポ
    チの部屋は危険過ぎます。もう二手に分かれる意味はないと思います。
    (神話生物の正体がわかった以上、俺が啓太を護らなければっ……!)
西園寺:それが良いだろう。あのクマは完全に愉快犯だ。いつ、気が変わるかわからない。何かを
    見落として時間を無駄にする事態は避けたい。
伊藤 :俺はそれで構わないですけど……中嶋さん、大丈夫ですか?
中嶋 :ああ、本の部屋なら鏡はないだろう。だが、念のため俺は最後に部屋へ入る。
西園寺:ならば、私が先頭で入ろう。神話生物の作った空間にある部屋だ。一体、どんな本がある
    のかとても興味がある。お前達も何か気になる本を見つけたら、手に取る前に私を呼べ。も
    し、それが貴重な古書ならば、粗雑に扱う訳にはいかない。
丹羽 :了解。そういうのは郁ちゃんの専門だからな。判断は任せるぜ。それじゃあ、行くか。
七条 :では、貴方達は次の情報を求めて西の部屋へと向かいました。木製の扉を開けると、そこ
    は落ち着いた書斎になっていました。左右に大きな本棚があり、部屋の中央には重厚な机
    と黒い革張りの椅子が一つあります。本棚を調べるなら、左右それぞれに『図書館』を振っ
    て貰います。机には『目星』か『アイデア』、椅子は特に情報はありません。
丹羽 :頭数を揃えて正解だったな。俺は机に『目星』をするぜ。
中嶋 :俺は右の本棚に『図書館』を振る。
西園寺:では、私は左の本棚にする。
遠藤 :俺は右の本棚に『図書館』をします。
伊藤 :俺は『図書館』は取ってないので、机に『アイデア』をします。


丹羽 :目星(75)→91 失敗
中嶋 :図書館(85)→42 成功
西園寺:図書館(85)→02 クリティカル
遠藤 :図書館(65)→64 成功
伊藤 :アイデア(75)→41 成功


丹羽 :うおっ、危ねえ。啓太がいなかったら、情報を取り零すところだったぜ。
七条 :では、順番に描写します。丹羽会長は机を調べようと椅子に腰を下ろしましたが、その座り
    心地の良さに何をするか忘れてしまいました。暫く椅子を堪能していて下さい。
丹羽 :あ~、これは人を駄目にする椅子だな……俺の事務所にも欲しいぜ……
七条 :遊んでいる丹羽会長を横目に伊藤君は机を見回しました。右手に置いてあるラテン語の
    辞書を手に取ると、それには使い込まれた形跡があります。どこかにラテン語の本がある
    のかもしれないと思いました。左の本棚を調べた郁は、なぜか古めかしい一冊の本にとても
    引き寄せられました。怪しいと思いつつ、手がそれに伸びます。その本は『妖蛆(ようそ)の
    秘密』と呼ばれる魔術書で郁には読めない欧州言語で書かれていましたが、頁を繰る度に
    おぞましい何かが頭の奥に囁き掛け、内容が理解出来てしまいました。冒涜的な知識に脳
    内を侵された郁は1/1D6のSAN(正気度)チェックと2%の神話技能を獲得です。
西園寺:……ゲームとはいえ、私には読めないと言われるのは不愉快だな。
七条 :ふふっ、すみません。次にPC(プレイヤー・キャラクター)を作るときは『その他言語』を取る
    ことをお薦めします。
西園寺:そうだな。考慮しよう。


西園寺:SAN(83)→96 ファンブル 1D6→4
     :SAN(83)→79
     :クトゥルフ神話(14)→16


七条 :ああ、折角のファンブルが無駄になってしまいました。
西園寺:SAN(正気度)チェックには適用しないからな。残念だったな、臣。
七条 :でも、まだ機会はあります。魔術書『妖蛆(ようそ)の秘密』を読んだ郁は1D4のSAN値と
    引き換えに呪文を一つ覚えられます。ルルブから好きなものを選んでも良いですが、『図書
    館』のクリティカルとして僕がこのシナリオで役立ちそうなものを挙げることも出来ます。どう
    しますか?
西園寺:臣が選んでくれ。
七条 :わかりました。では、郁は不可視の下僕の覚醒という呪文を覚えました。1D4のSAN(正
    気度)を喪失し、1%の神話技能を獲得します。


西園寺:1D4→2
     :SAN(79)→77
     :クトゥルフ神話(16)→17


七条 :(『妖蛆(ようそ)の秘密』には魔力が籠もっていますが、言えば難易度が下がってしまいま
    す……取り敢えず、暫く黙っていましょう)
    酷く精神を消耗した郁は魔導書を本棚に戻すことにしました。パタンと本を閉じると、読んで
    いたときは気づかなかったのですが、本の最後に何か紙が挟まっています。引き出すと、そ
    れは手書きのメモでした。


精神転移
対象と半永久的に精神を交換する呪文。本来、多くの魔力と精神力を消費するが、以下の条件を整えれば、それなくして呪文を発動することが出来る。
1,対象と三親等以内の血族である
2,対象と目を合わせる
また、この二つの条件が揃えば、対象との精神対抗を行わずに呪文をかけることが出来る。但し、再度、入れ替わることは出来ない。
呪文をかけた者の精神が死んだ場合、対象の精神は元の身体へと戻る。


西園寺:それは鏡文字か?
七条 :いいえ、普通の字です。
西園寺:……成程。
    (ここには二人の書き手がいる。鏡文字は鏡の中の私達で、普通の字は恐らくクマだろう。
    すると、クマは自分で問題を出し、答えを用意していたことになる……やはり単なる遊びか)
七条 :右の本棚を調べていた二人は、そこには様々な生物――特に星の精――について書か
    れた本の多いことに気づきました。それによると、星の精とはその名の通り星間宇宙から飛
    来した地球外生命体で吸血鬼の様な特徴を持ち、目で見ることは出来ませんが、クスクスと
    いう気味の悪い笑い声と細かい砂の流れる様な音で居場所の見当がつけられるそうです。
中嶋 :そんな情報が出るなら、この先で戦闘になるのは確定だな。
伊藤 :でも、星の精って妖精みたいな感じだから大丈夫なんじゃないですか。
    (これならあまり怖くないかも)
中嶋 :名前の印象だけならな。
遠藤 :啓太……いや、何でもない。
七条 :ふふっ、伊藤君が気に入ってくれて僕も嬉しいです。ここでは更に『オカルト』の二倍か『知
    識』を振れますが、遠藤君が自動成功なので省略します。そうした本を読んでいた二人は吸
    血鬼の代表的な特徴を改めて把握しました。一般的に知られている血を吸うとか、太陽の
    光に弱い、鏡に映らないなどですね。また、遠藤君は星の精が目に見えないことから不可
    視の下僕と呼ばれて恐れられていることを思い出しました。左右の本棚を調べ終わった三
    人は机の周りに集まり、互いにわかったことを話しました。これからどうしますか?


 当然、と丹羽が言った。
「質問の答えもわかったし、北の部屋へ行く。だが、中嶋、お前は鏡を見る度に対抗ロールが入るだろう。どうする?」
「KP(キーパー)、失敗した場合はどうなる?」
 中嶋は小さく腕を組んだ。紅茶を飲みながら、七条は淡々と答えた。
「北の部屋へは入れません」
「なら、俺は中央の部屋で待っている。クマに会うために態々全員で行く必要はない」
「あっ、それなら、俺も残ります」
 突然、啓太が口を挟んだ。和希が僅かに目を瞠る。
「なぜ、啓太も残るんだ!?」
「そうしたら、その間に『精神分析』で中嶋さんのSAN値を回復させられるだろう。この先、SAN(正気度)チェックがあるみたいだし」
「それはそうだけど……」
 和希は言葉を濁した。また啓太が中嶋と一緒なのは面白くなかった。中嶋が揶揄する様に言った。
「不満が顔に出ているぞ、遠藤」
「出ていません」
 素っ気無く和希は返した。啓太は密かに首を傾げた。
(何か和希は反対みたいだけど、どうして……もしかして、俺と中嶋さんが別行動するのが心配なのかな)
 微妙にずれた結論に辿り着いた啓太は小さく苦笑した。本当に過保護だよな……
「大丈夫だよ、和希。俺達、中央の部屋から動かないから」
「啓太……ああ、わかった」
 和希は力なく肩を落とした。クスッと西園寺が笑った。
「苦労するな、遠藤。だが、啓太はそれで良いだろう。中嶋のSAN値はあまりに心許ない。北の部屋へ入れなければ、このシナリオをクリアすることが出来ないからな」
 行動が決まったので、七条は飲んでいた紅茶のカップを置いた。
「なら、先ほどと同じ様に貴方達は二手に分かれることにしました。まずは北の部屋へ行った丹羽会長と郁、遠藤君の描写をします」



2021.1.23
少々鈍感な啓太です。
一応、CoCリプレイ風SSの中ではCPは未設定です。
まだ啓太は色気より食い気です。

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Café Grace
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