七条 :北の部屋に入った三人は驚いて目を瞠りました。鏡の前にあったはずの男の死体が綺麗
に消えています。辺りにむせ返る様なあの血の匂いは勿論、小さな血痕すら残っていませ
んでした。ここで再度、左右の人形の山に『目星』を振れます。但し、遠藤君は今回が初め
てなので、出る情報は先刻の『目星』と同じです。
遠藤 :つまり、SAN(正気度)チェックまであるということですね。なら、俺はしません。死体が消え
たことに驚いています。
丹羽 :出来れば俺も振りたくねえが、人形のことを知ってるだけに気になるよな、やっぱり……仕
方ねえ。振るぜ。
西園寺:私も振る。
丹羽 :目星(75)→39 成功
西園寺:目星(85)→21 成功
七条 :では、死体消失に気を取られている遠藤君の傍で丹羽会長は左の人形の山に視線を走ら
せました。すると、山の上にクマさんが座っているのを見つけました。今はじっとしているの
で単なるぬいぐるみにしか見えませんが、その手には非対称の小さな黄色い箱を持ってい
ます。
丹羽 :……マジかよ。
(まさか正解の褒美ってあれじゃねえよな)
七条 :一方、右の人形の山を見た郁は先ほどと少し変わっていることに気づきました。人形が一
つ増えています。それも他と同様に苦悶に顔を歪め、頭には黒い穴が開いていました。死
体が消えて新たに現れた人形……嫌でも郁はその二つを結びつけて考えてしまうでしょう。
0/1のSAN(正気度)チェックです。
西園寺:問題ない。
西園寺:SAN(77)→18 成功
七条 :貴方達が部屋に入って来たのに気づいてクマさんは立ち上がりました。嬉しそうに声を掛
けます。
クマ :やあ、意外と早かったね……で、答えはわかったかな。
丹羽 :ああ。
クマ :それじゃあ、教えて。一、君達がこの世界へ来たのはなぜか?
西園寺:精神転移だ。詳しく説明する必要はないだろう。
クマ :うん、僕は知ってるからね。二、もう一人とは誰か?
丹羽 :鏡の中の俺達だ。
クマ :お~! 正解だよ。正解。大正解~!
七条 :クマさんは派手に喜んで貴方達の前で小躍りしました。可愛い足で飛んだり、跳ねたり、ク
ルクル回ったり……その度に踏みつけられた人形が鈍く軋みます。やがてどこかの人形の
手か足が折れたのでしょう。バキッ、ボキッという音が混じり始めました。
西園寺:やめろ!
クマ :あれ? 気に入らなかった? 僕は正解した君達を褒め讃えて踊ってるんだよ。
西園寺:不愉快だ。
クマ :踊りが? それとも、これかな。
七条 :そう言うと、クマさんは人形の顔の上で態と足を踏み鳴らしました。
丹羽 :クマを人形の山から叩き落す。
七条 :残念ですが、クマさんは丹羽会長の手をひらりとかわしてしまいました。
クマ :乱暴だな、もう。君達も、いつも同じことをしてるのに。
西園寺:それは、どういう意味だ?
クマ :毎日、鏡の中の自分を踏みつけてるでしょ。たとえば、髪の寝癖を直すとき……鏡は常に
今の姿を映してくれる。それを踏み台にして君達は髪を整え、より良い自分になるんだ。ほ
ら、僕と同じじゃないか。
丹羽 :いや、実際に人形を踏むのと鏡に姿を映すのは別だろう。俺達は何も踏みつけてねえ。
クマ :それは君達の勝手な理屈だよ。僕には、この世界も鏡の中も同じ……だから、踏む者と踏
まれる者の立場を交換してみたんだ。
西園寺:何のために?
クマ :面白そうだからに決まってるだろう。
丹羽 :……最低だな。
遠藤 :その愉快犯的な思考……俺は貴方の正体がわかった気がします。
クマ :ふふっ、僕は有名だからね。でも、今まで誰も気づかなかったんだ。やっぱり君達は見どこ
ろがある。さあ、この調子で頑張って。ここからが本番なんだ。もっと、もっと僕を楽しませて
よ!
七条 :クマさんがそう叫ぶと、三人の頭上から一枚の紙がひらひらと落ちてきました。
丹羽 :手を伸ばして紙を掴むぜ。
七条 :では、その瞬間、貴方達の視界は白く染まりました。ここで描写を切って時間を少し戻しま
す。場面は三人が北の部屋へ向かった後の中央の部屋です。伊藤君は『精神分析』でした
ね。振る前にRP(ロール・プレイ)を入れますか?
伊藤 :そうですね。いきなり『精神分析』するのは変だし……それじゃあ、えっと……王様達を見
送りながら、何となく中嶋さんに話し掛けます。これで帰れるんですよね……
(でも、そのためには……)
中嶋 :不安そうだな。
伊藤 :(あっ、俺はまだ帰り方を知らないんだった)
いえ、そんなことは……ただ、北の部屋にいた男の人は死んでしまったと思ったら……すい
ません。やっぱり不安です、俺。もしかしたら、俺達もその人と同じ目に遭うんじゃないかっ
て……
中嶋 :お前がそう思うのも無理はない。丹羽達の話を聞く限り、クマは完全に愉快犯だ。そんな
奴がこの程度で満足するとは思えない。教えてくれるその方法とやらも恐らく一筋縄ではい
かないだろう。
伊藤 :中嶋さんは怖くないんですか? 何を言われるかわからないのに……
中嶋 :ああ、俺は未知のものを恐れはしない。世界には俺の知らないことの方が遥かに多い。そ
れを一々気にしていたら切りがないだろう。
伊藤 :なら、中嶋さんには怖いものってないんですか?
中嶋 :そんなことはない。今、そこにいるものに恐れにも似た感情を抱くこともある。
伊藤 :今、そこにいるもの……?
中嶋 :ああ、それは俺を酷く惑わし、かき乱すからな。だが、同時にまた俺を強く惹きつけてやま
ない。思わず、手を伸ばさずにはいられないほどに、な。
伊藤 :なぞなぞですか? う~ん、何か質が悪そうですね、それ。
中嶋 :ふっ……ああ、全くだ。
伊藤 :(あれ? 今、俺を見て少し笑った様な……気のせいかな。要は、そこにあって中嶋さんを
混乱させるものだよな……あっ、そうか。中嶋さんはまだ鏡が心的外傷(トラウマ)だから、
それを巧く使って判定に繋げろって言ってるんだ)
中嶋さん、鏡のことを言ってるなら大丈夫です。どうしても北の部屋へ行かなければならなく
なったら、中嶋さんは目を瞑ってて下さい。俺が中嶋さんの手を引いてあげます。俺は、ずっ
と中嶋さんに付いてます……!
遠藤 :KP(キーパー)、もうRP(ロール・プレイ)は充分ですよね。
中嶋 :俺はまだ答えていないぞ、遠藤。
遠藤 :これ以上は必要ありません。
(俺の前で啓太に言い寄るなど許さない。絶対に啓太は渡さない!)
七条 :そうですね。では、伊藤君の優しさとして『精神分析』に補正5をプラスしてどうぞ。
(遠藤君は必死ですね。でも、この言い方では伊藤君に誤解されそうです)
伊藤 :あっ、はい。
(和希に切られちゃった。シナリオとあまり関係ないRP(ロール・プレイ)は長くならないよう
気をつけよう)
伊藤 :精神分析(88+5)→89 成功 1D3→1
中嶋 :SAN(12)→13
伊藤 :辛うじて成功したけど……すみません、中嶋さん、最低値でした。
中嶋 :いや、失敗するよりかは良い。この1で救われることもある。
伊藤 :はい。
(やっぱり優しいよな、中嶋さんって)
七条 :では、ここで北の部屋にいた三人が中央の部屋へ飛ばされて来ます。全員、合流です。二
度目なのでもう誰も驚きませんが、丹羽会長の手にはしっかりと紙が握られていました。
丹羽 :くそっ、またかよ………とぼやいて紙を読む。
七条 :それにはこう書かれていました。
真っ赤な不可視の弾丸がもう一人を貫く
遠藤 :アイデア(75)→32 成功
七条 :では、気づいたことをRP(ロール・プレイ)で共有して良いですよ。
遠藤 :わかりました。なら、紙を見た俺はこう言います。この真っ赤な不可視の弾丸というのは血
を塗った弾丸のことではないでしょうか。
伊藤 :えっ!? 自分の血を塗るのか!?
遠藤 :いや、これは南の部屋にいるステラ――星の精――の血を指していると思う。星の精は不
可視の存在……目に見えず、鏡に映らない。その血を塗った弾丸なら、鏡の中にいる俺達
には届かないんだろう。
伊藤 :そっか……でも、目に見えない相手からどうやって血を取るんだ?
西園寺:KP(キーパー)、不可視の下僕の覚醒を習得している私はその意味を知っているというこ
とで良いな?
七条 :はい、郁は不可視の下僕の覚醒の呪文で星の精を召喚・従属させることが出来ます。コス
トは任意ですが、1MP(マジック・ポイント)につき成功率が10%上がります。但し、使用す
る度に1D3のSAN値を失います。
西園寺:ならば、私は啓太に言う。それは問題ない。先ほど読んだ魔導書で私は不可視の下僕の
覚醒という呪文を覚えた。これを使って星の精を従属させ、注射器で血を取れば良い。
伊藤 :注射器なんてどこに……あっ、必要の部屋!
中嶋 :やることが見えたな。北の部屋へ行き、星の精の血を塗った弾丸で鏡の向こうにいるもう
一人の自分を撃つ。そうすれば、俺達は現実に帰れる。
丹羽 :そうとわかったら、全員で必要の部屋へ行こうぜ。判定の頭数は多いに越したことねえ。
七条 :では、意見の纏まった貴方達は皆で東の部屋へ向かうことにしました。
2021.3.19
TRPGの中でも和希と中嶋さんは啓太を取り合っていますが、
当の本人は全く気づいていません。
シナリオを無事にクリアしても、
その後、啓太は大変そうです。
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